6. ケルト・ゲルマン、北欧神話の神々 - 5. 悪神ロキの物語 | 小澤 克彦 岐阜大学・名誉教授

ケルト・ゲルマン、北欧神話の神々
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INDEX
1. ケルト神話の様相
2. エッダと北欧神話の世界
3. ゲルマンの神々
4. 主神オーディンとトール等の主要な神々
5. 悪神ロキの物語
6. 神々の黄昏と世界の終末
7. ゲルマン的英雄像

5.

悪神ロキの物語


はじめに
 ゲルマンの神々の中でももっともユニークなのが「ロキ」という神の存在と言えます。「スノッリのエッダ」での彼の紹介は「アース神の中傷者、あらゆる嘘の張本人、神々と人間の恥」となっています。確かに「人間的な神々」であったギリシャの神体系の中にも「殺戮の神アレス」のように「好まれてはいない」神もおりましたけれど、こんな「ロキ」のような言い方はされていません。
 そのロキはどんな行動をしていたのかというと、スノッリでは「巨人の息子であり(だから本来ならアース神一族ではないということになる)、容貌は美しいのだが、性格がひねくれていて行動がひどく気まぐれなのだ、悪知恵にかけては誰にもひけをとらず、何事にもずるい手だてを心得ていた。いつも神々を苦境に陥れたが、そのはかりごとで救い出したこともしばしばある」と言われています。そして最終的にはアース神の敵となって世界最終戦争において攻撃を仕掛けてくることになるのでした。

「八本足の馬スレイプニルにまつわる物語」
 ロキはヨーツンヘイムの女巨人と関係を持って「妖怪狼」、世界を取り巻く猛毒を吐く「大蛇」、冥界の女王とされる「ヘル」の三人の子どもを生んでおり、ロキはこんな具合に妖怪を生む神でもありました。そしてオーディンの持ち馬「八本足のスレイプニル」もロキが生んでいたのでした。その次第は次のようなものです。
 その昔、神々が世界を作って人間の住む「ミズガルズ」を作り、そして神々がヴァルハラに定住し始めた頃、一人の「鍛冶屋」が神々のところにやってきました。そして彼が言うには、「山の巨人や霜の巨人がミズガルズに攻め入ろうとしても、それを防いで安全で信頼のできる砦をたった一年半で作ってさしあげましょう。その報酬としては女神フレイヤと、太陽と月もいただきたい」と申し入れてきました。
 そこで神々は集まってどうしようかと相談をし、砦はやはり欲しいと思って、結局「もし、一冬でその砦を作ることができたならば、約束通り望みのものは差し出すことにしよう。だが夏の最初となってまだ少しでもやり残している部分があったらこの契約は無効となり報酬はやらない。しかもこの仕事で誰かの助けがあっても駄目だ」と言いました。
 この申し出を聞いて鍛冶屋は「自分のスヴァジルファリという名前の馬を使うことだけは認めて欲しい」と言ってきました。神々はまた相談したけれど「ロキ」がこの契約を皆に勧めたので、神々はこの契約を認めることにしました。
 そこで鍛冶屋は冬となった一日目から砦の建設へと取りかかることになりました。彼は夜のうちに「馬のスヴァジルファリ」を使って石を運んできました。ところがその馬の運んでくる石はとてつもなく巨大なものだったので神々はそれを見て肝をつぶしました。しかもその馬は鍛冶屋の倍も働くのでした。
 こうして冬が過ぎていきましたが砦の方も着々と工事が進み、今や何人が攻めてきても攻撃できないほどに頑丈に高々と築かれていきました。そして夏の始まる三日前となった時には「砦の門」を残すのみとなっていました。
 神々はあわてました。そして集まって相談し「一体、誰が女神フレイヤにヨーツンヘイムに嫁に行けなどと言えるのか。またどうやって太陽と月を奪ってきて空と天とを破壊してまで鍛冶屋に与えるのか」と話し合いました。もちろん妙案などあるわけもありません。
 そこで神々はロキに向かって、こんな悪い事を勧めたのはいつものことながらお前だ、この取り決めが破棄になるような策を考えなければろくな死に様にさせないぞと脅しました。これは神々の方が悪いですけれど、ロキは神々の剣幕を怖れて何としてもこの契約が破棄になるようにすると誓いました。
 その晩、いつものように鍛冶屋は馬のスヴァジルファリを連れて石を運ぼうと出かけていきましたが、その時森の中から一頭の美しい牝馬が現れてスヴァジルファリの方に駆けてきていななきました。スヴァジルファリはその牝馬を見てその美しさに目がくらみ、大暴れをして手綱を引きちぎり牝馬の方に駆けていってしまいました。あわてた鍛冶屋は必死に馬を追いかけ捕まえようとしましたが二頭の馬は一晩中駆け回り、ついに鍛冶屋はその晩の工事ができませんでした。そして翌日も同じような事態になってしまいました。
 鍛冶屋は工事が夏の日が来るまでには終わらないということを悟ると「巨人の正体」を表して怒りに燃えました。アース神たちは鍛冶屋が「山の巨人」だと知ると、誓約を破ってトールを呼び出しました。このとき実はトールは怪物を退治に東へと行っていたのです。そしてこの工事の期間中はトールを戻すことはないという誓約をしていたのでした。というのも巨人たちはトールをもっとも怖れていたからです。
 トールは自分を呼ぶ声にすぐに帰ってきました。そして鍛冶屋に報酬を払うことも許さなかったばかりか巨人族の領地であるヨーツンヘイムへ帰ることも許さず、槌を振り上げるや巨人の鍛冶屋の頭を粉々に砕いてしまい冥界の「ニヴルヘル」へと送ってしまったのでした。
 さて、あの鍛冶屋の馬スヴァジルファリを色香で惑わした牝馬というのは実はロキが身を変えたものだったのでした。そのロキである牝馬はその後もスヴァジルファリのところに通い、しばらくして「子馬」を生んだのです。その馬は八本も足があってどんな馬よりも速く走ることのできるもっとも優れた名馬となってオーディンの馬となったのでした。

「六つの宝の物語」
 さらにロキが神々にもたらしたものとしては、すでに紹介してあるオーディンの持つ「投げやり」「黄金の輪」とフレイの持つ「折りたたみ式の船」と「金色の猪」、トールの持つ「槌のミョルニル」にまつわった物語があります。
 ある時ロキはいたずらで、トールの愛妻シフの自慢の金髪をすっかり切り取ってしまいました。トールは当然激怒してロキを捕まえ力任せにロキをこなごなにしてしまおうとしました。ロキは大あわてで謝り、必ず元通りにしますと約束して釈放してもらい、細工に巧みな「こびと族」を訪ねていきました。そして細かな細工の名人であるこびと「イワルディ」の仕事場に行って自然の髪と同じように生えてくる黄金の髪を注文して作らせたのでした。ついでにロキは「折りたたみ式の船」と「必ず命中する投げやり」とを作ってもらってアースガルドに戻り、トールの妻には「黄金の髪の毛」を、オーディンには「投げやり」を、フレイには「折りたたみ式の船」を献上したのでした。そして自慢してこれほどのものをつくれる者は他には決して存在しないだろうと吹聴したのでした。これを聞きとがめたのがブロックルという「こびと」で、自分の兄弟の「シンドリ」はもっと素晴らしいものが作れるとロキをたしなめてきたのです。そこで両者は言い争いになり、結局二人は「自分の頭」を賭けて勝負することになってしまいました。
 ブロックルからこれをきいたシンドリは早速製作に取りかかり、先ず一頭の「豚の皮」を炉の中に入れ、ブロックルに片時も休まずに「ふいご」を動かし続けるように言い置いて出ていきました。ブロックルは「ふいご」を動かし続けていましたがその時一匹のアブが飛んできてその手を激しく刺しました。これはアブに身を変えたロキの仕業でした。しかしブロックルはそれに耐えて「ふいご」を動かすのを止めませんでした。しばらくしてシンドリが戻ってきて炉の中から「黄金の猪」を取り出したのでした。
 次にシンドリは一つの黄金の塊を炉の中に入れ、また同じようにブロックルに片時も「ふいご」を休むことなく動かすようにと言い置いて出ていきました。ブロックルが言いつけ通り休みなく「ふいご」を動かしているとまたもや「アブのロキ」が飛んできて前よりももっと激しく刺してきました。ブロックルは必死にそれに耐えて休みませんでした。やがてシンドリが戻ってきてとりだしたのが「黄金の輪」でした。
 さらにシンドリは鉄を炉の中に入れました。そしてブロックルにもし「ふいご」の手を休ませたらすべてが台無しになってしまうからと注意してまたも出ていきました。「ふいご」を動かしているブロックルに「アブのロキ」は、今度は両目に間に止まってまぶたの上を刺してきたのです。そのため目の中に血が流れてブロックルは目が見えなくなり、困ったブロックルは一瞬動きを止めて両目の間に止まっているアブを追い払い再び「ふいご」を動かしました。やがてもどってきたシンドリが炉の中からとりだしたのは一つの「槌のミョルニル」でした。ただブロックルが一瞬動きを止めたためこの槌は少し柄の部分が短くなっていました。そして黄金の輪を「オーディン」に、「黄金の猪」を「フレイ」に、そして「槌のミョルニル」を「トール」に差し出し、「ロキの贈り物」とどちらが優れているかの判定を求めてきました。三人の神はそれらを見比べ、巨人たちから世界を守るのに最大の武器となる「槌のミョルニル」が最も貴重であると認めてブロックルの勝ちとしました。
 ところで二人は「頭」を賭けていたわけで、ロキは頭をとられなければならないことになってしまいましたが、そこはロキのことでずるく、頭をやるとは言ったけれど首までやるとは言わなかったのだから首を傷つけることなく頭を取れと言い張りました。やむなくブロックルはキリと革ひもを持ち出しロキの生意気な口を縫い合わせてしまったといいます。
 以上の物語は「おとぎ話」のようなものですが、次に紹介する「神バルドル」に関わる話こそロキが神々に最大の悲劇をもたらした悲惨な物語となります。

「神バルドル」にまつわる物語
 これは「アース神たちにとってもっとも重要な話である」と語られてきます。その始まりは「善良なる神バルドル」が自分の生命に関わる不穏な夢をみたことから始まりました。
 バルドルについては「もっとも優れた神で誰一人彼をたたえない者はいない、容貌も美しく輝いており光が発している。彼はもっとも賢く雄弁で優しい」とたたえられているほどの神であり、アース神の中でも重要な神の一人でした。
その彼が不吉な夢をみたということで、その夢のことをアース神たちに告げると神々は集まって相談しバルドルをあらゆる危険から守ろうと誓いました。
 そしてオーディンの妻である最高の女神フリッグは「火や水、鉄を始めあらゆる金属、石や大地、樹々、獣、鳥、蛇、また病気や毒」に対してバルドルに指一本触れることがないように誓いをたてさせました。そして神々はバルドルをみんなの真ん中に立たせて、てんでに彼めがけて弓を射たり刀で斬りつけたり石を投げつけたりしてみました。しかし何をやってもそれはバルドルの身体に触れることがなく、彼は何ら傷を負うことがなかったのです。神々は大変喜んで満足しました。
 しかし「ロキ」一人は、バルドルが何をされても無事なのが気に喰いませんでした。彼は胸に黒い気持ちを持ってそこを離れ、一人の「女」の姿に身を変えてフリッグのもとを尋ねたのです。フリッグは「女」が神々の集まりのところから訪ねてきたと知って、神々が何をしているかと尋ねました。「女」は、神々は皆でバルドルに弓を射たり斬りつけたり石を投げたりするのだけれど何一つバルドルの身体に当たらず傷つかないのですと答えました。フリッグは笑って、「どんな武器も槍や弓もバルドルを傷つけることはないのだよ、みんなから誓いを取り付けてあるのだから」といいました。ロキが化けている女はずる賢く「皆なんてことはないでしょう」といいました。そこでフリッグはうっかり「西の方に宿り木の若木が生えてきたのだけれど、それは誓いをたてさせるには若すぎたから」と答えてしまいました。
それを聞くや「女」の姿をしていたロキはすぐに西に向かい、宿り木が生えているのを見つけてそれを引き抜き、再び神々の集う広場へとやってきたのです。皆はまだワイワイやっていましたが一人「ヘズ」という神だけがみんなから離れて一人でたたずんでいました。というのもこの「ヘズ」は盲目だったので弓を射たり物を投げつけたりすることができなかったからです。
 そこでロキはヘズに、「何で君はバルドルに弓を射かけないのかい」とわざといいました。ヘズは「自分にはバルドルの立っているところが見えないからね」と寂しく言いました。これを聞いてロキは「他の皆と同じようにしなくてはバルドルに敬意を示したことにならないよ、さあ、これで射てみるがいい、場所は僕が教えるよ」と言って弓とあの宿り木を削って作った矢を渡しました。
 そこでヘズはロキに教えられた方向に向かって弓を引き絞って宿り木の矢を射かけたのでした。その矢は過たずバルドルの身体を貫き、バルドルは倒れ死んでしまったのでした。
 神々は声を失い立ちすくむだけでした。そしてこんな仕業をした者に対して怒りで煮えくりかえりましたが、ここは聖なる場所でしたからここで復讐することはできませんでした。神々は何か話そうと思いましたが涙が先に出て声になりませんでした。とりわけオーディンの嘆きは激しいものがありました。しかしロキの悪行はこれにとどまらなかったのです。
 神々はやっと我に返りました。そしてそこに急を知って駆けつけてきた女神フリッグが一つの提案をしました。それは誰か自分の使者として冥界へと赴き、そこでバルドルをアースガルズに戻してくれるように冥界の女王ヘルに交渉してくれる者はいないか、というものでした。
 この役を引き受けたのはオーディンの子でバルドルの弟「ヘルモーズ」でした。彼は「俊敏のヘルモーズ」と呼ばれるほどすばしこい神でした。彼は父オーディンからあの八本足の名馬スレイプニルを貸し与えられて駆けていきました。
 一方、バルドルの葬儀が執り行われることになりましたが、バルドルの持ち船を海に浮かべて葬儀の儀式をしようとしたけれどあまりに大きい船であったので誰も動かせず、やむなく船の扱いになれた女の巨人が呼ばれました。彼女が一押しするとコロから火花がちって大地がふるえたけれど船は動いて無事海に浮きました。バルドルの死体は船に運ばれ、彼の妻ナンナはこれを見て悲しみのあまり心臓が張り裂けて、かわいそうにバルドルの後を追っていきました。彼らの死体は薪の上に横たえられ荼毘に付されていきましたが、この葬儀にはすべての神々が参列し、山の巨人や霜の巨人たちすらもやってきました。誰からも愛されたバルドルだったからです。オーディンはその荼毘の薪の上に自分の黄金の腕輪を置きました。この黄金の腕輪が九日目ごとに自分と同じ黄金の腕輪を八つ生み出すようになったのはこれからのことだったのです。
 他方、ヘルモーズは九日間暗い深い谷間に馬を進めて、何も見えない中でギョル河のギョル橋というところに出ました。この橋は「冥界ヘル」への橋でした。番人の娘は言った「前日は死者が五組もこの橋を渡ったけれどあなた一人ほども橋を鳴り響かせることはなかった。それにあなたは死者の顔をしていない。あなたは何をしにこのヘルにやってきたのですか」と。ヘルモーズはそれに答えて「自分はバルドルをさがしているのだ。あなたはバルドルを見かけてはいないか」と尋ねました。娘はそれに答えて「バルドルはすでにこの橋を渡っていきました。ヘルへの道は下り道で北に向かっています」と教えてくれました。ヘルモーズはこうして冥界ヘルを囲む垣の所までやってくると馬の下帯をしっかり締め直して、一息でこの高い垣を跳び越えていきました。そしてヘルの館につくと馬を下りて広間へと入っていきました。するとその広間の一段と高くなっている高座に兄のバルドルが悠然と座っているのを目にしました。ヘルモーズはこうしてバルドルと再会して一夜を過ごし、朝になって冥界の女王ヘルに会い、神々の嘆きを話してバルドルの返還を願いました。
 ヘルはそれを聞き、「では世界中の者が、生きている者も死んでいる者も彼のために泣くのなら彼を戻そう。しかしもしたった一人でもそうしない者がいたらここにとどまらなければならない」と言いました。ヘルモーズはバルドルとその妻ナンナからのオーディンやフリッグへの贈り物を託された上で引き返していき無事アースガルドに戻ると皆に一部始終を話してきかせました。すぐに神々は世界中に使者を差し向けてバルドルのために泣いて欲しいということを伝えました。すべてのものが、人も獣も植物も、大地も石も金属もバルドルのために泣きました。ところがある一つの洞窟の中にいた巨人の女を見つけた時、この女は「私には関わりがない」と泣くのを拒絶してきたのです。このたった一人の女巨人ために神々はついにバルドルを取り戻すのに失敗してしまったのです。この女こそまたも「ロキ」が姿を変えていたものだったのでした。
 なお、バルドルを殺すことになってしまった「ヘズ」ですが、バルドルの弟「ヴァーリ」によって復讐され殺されることとなり、バルドルを追って「冥界」に行くことになります。しかし世界終末の後、バルドルと共にヘズも新しい地に再生してくる神となるという運命を持っています。そして『巫女の予言』では世界終末の後「種もまかぬに穀物は育つであろう。すべての災いは福に転ずるであろう。バルドルは戻るであろう。戦士の神々、ヘズとバルドルはフロプト(オーディンの別名の一つ)の勝利の地(アースガルドのヴァルハラ)に仲良く住む」と謳われています。二人は切り離せない関係にあるのでした。

 このバルドルは本来「バル」という言葉から推察されるように「明るい、光り輝く」という意味をもった「光明神」であり、この物語はその「光」が一度は「闇」によって滅ぼされ、再び新たな地に上ってくるというわけで、これは「一日の昼と夜」「季節の冬と夏」、そしておそらく「世界の終末と新たな世界の新生」という終末論的思考に基づいた物語なのでしょう。つまり「ヘズ」はバルドルの兄弟であるわけですが「盲目」という描写で「闇」を表していると考えられるわけです。
 ただこの神はすべてのゲルマン民族に共通した神ではなくスカンディナビアの、つまり「島のゲルマン人」特有の神であったろうと考えられています。それだけに「光と闇」というイメージが強く表れているのかもしれません。

「ロキの懲罰」
 その後、すべてを知った神々はロキに対する怒りを爆発させました。それを覚るとロキは逃げだしてある山に身を隠し、四方に窓のある家を造ってそこに住んで始終窓から四方を見張っていました。しかも昼間はしばしば「鮭」に身を変えて滝壺の中に隠れていました。そしてアース神たちがどうやって自分を捕らえる工夫をするとか案じて、自分を捕らえる「網」の具合など自分で試作などしていました。そんな折り、ついにオーディンがロキの居場所を見つけました。ロキはそれを悟ると素早く試作していた網を火にくべて燃やしてしまい、河の中に飛び込みました。アース神たちはロキの家に迫ると、「知恵者クヴァシル」が家の中に入り、いろいろ調べていくうち火の中の灰を見つけ、それを調べてこれが魚を捕る網に違いないと察知してその灰の形から類推して一つの網を作り上げていきました。
 アース神たちはそれを持って河に来て、一方の端をトールが持ちもう一方は残った神々が一緒になって持って網を河に投げ入れました。しかしロキは巧みにそれをかいくぐって二つの石の間に身を潜めていました。それと知った神々は網がさらに下まで届くように重しをつけて投げ入れ、ロキはそれを逃げ、などしているうち海の近くまできてしまいました。海はさすがに危険でした。そこでロキは飛び上がって網の上を飛び越えて再び滝の方に逃れてきました。そこでトールは河の中に入り網で追い出すように迫っていきました。ロキは海に逃れるか再び網の上を越えて逃げるかの決断が迫られました。ロキは後者を選んで思い切り飛び上がりましたがトールはそれを逃がしはしませんでした。トールは思い切り、鮭となっているロキをつかみましたが、頭の部分は滑ってしまいようやくしっぽのところで固くつかむことができました。それ以来「鮭のしっぽ」は細くなったと言われます。
 こうしてロキは捕らえられそして洞窟のところに連行され、神々は三つの平らな岩を取り上げて穴をあけ、その穴に紐を通してロキをこの三つの岩にくくりつけてしまいました。三つの岩の一つは肩のところ、二つめは腰の下、三つ目は膝の下でこうしてロキは身動きできなくされてしまいました。
 さらに毒蛇が捕まえられてきてロキの頭の上にくくりつけられ、その毒がロキに降りかかるようにしてしまったのです。そのためロキの妻「シギュン」は桶を持って夫の傍らにたってこの毒が頭に降りかからないようにしているのでした。しかしその毒が桶いっぱいになるとそれを捨てに行かなければなりません。その間は猛毒がロキに降りかかるのでロキは痛さに猛烈にもがくことになりました。それが人間世界で「地震」と呼ばれている現象なのだとされます。
 こうしてロキは世界の終末がくるまでここに捕らえられて苦しまなければならないことになりました。従ってこの続きは「世界終末戦争、神々の黄昏」になってきます。

 これ以外にもロキは至るところに出現しているもっともポピュラーな神であり、とりわけ『ロキの口論』と題された歌謡は、ロキが並み居る神々・女神をすさまじく誹謗していく非常にユニークなもので、ロキの性格の一つが良く描かれている作品です。
 さて、以上のようなものが「悪神ロキ」にまつわる物語ですが、こうしてみるとゲルマンの神々の方がギリシアの神々に比べて断然「人間的」であるということが言えそうです。というか、私たちが想像する「神の性格」というものがまるきり無いとも言えます。ギリシアの神々の物語は「神々の世界だけの物語」を見るとゲルマン神話に似ていると言えますが、しかし「人間世界との関係」がやはり根底にありますので「人間を越えた神の力」というものが描かれてきてその部分で「神の超越性」が見られてくるのですが、ゲルマン神話にはそれがないために「まるきり人間」の物語と変わらなくなってしまうわけでした。今回のテーマの「ロキの物語」はそうした「人間世界の写し」としての神の物語という性格を顕著に示していたと言えるでしょう。

 また、「ロキ」というのは神話学的に「閉じる者、終える者」を意味するか、あるいは「火」を意味するかとされています。「閉じる、終える」と理解すれば世界終末をもたらす者ということだとなります。しかしどうも、たとえばノルウェーでは暖炉の火がはねた時など「ロキの仕業」とするとかがあって、本来「火の精霊」であったものがアースの神の一員に昇格していった段階で神々を助けたり、あるいは災いをもたらすという「火の両面性」がイメージ化されていきやがて「災いの方向」に物語がつくられていったということかもしれません。そしてこのロキも「島のゲルマン人」に特有の神であったと考えられています。また「暖炉の火の跳ね」に見られるように、かなり日常的な神であったのだろう推測されています。

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