6. ケルト・ゲルマン、北欧神話の神々 - 3. ゲルマンの神々 | 小澤 克彦 岐阜大学・名誉教授

ケルト・ゲルマン、北欧神話の神々
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INDEX
1. ケルト神話の様相
2. エッダと北欧神話の世界
3. ゲルマンの神々
4. 主神オーディンとトール等の主要な神々
5. 悪神ロキの物語
6. 神々の黄昏と世界の終末
7. ゲルマン的英雄像

3.

ゲルマンの神々


はじめに
 ゲルマンの神々は、主神「オーディン」を中心とした神々の体系ということになりますが、ギリシャ神話でも「ゼウスの一統」だけがいたわけではなくさまざまの血筋を持った神々がいたように、ゲルマン神話でもその体系は複雑です。核となる「アース神族」の他に「巨人族」出身であったり、さらには「ヴァンル神族」と言われる神々の種族がいたり、「こびと族」や「妖怪」も重要です。
 その「アース神族」ですが、スノッリの「エッダ」ではアース神族に言及したとき「アース神は12柱いるのだ」と言ってきます。ギリシャでも「オリュンポス12神」であり、イスラエルも「12部族」で、したがってそれを引き継ぐイエスも「12弟子」を持ち、仏教でも「12神将」という具合に偶然としてはあまりに符号しすぎる「12」という数に何があるのかよく分かりません。一番わかりやすいのが「月の満ち欠け」つまり「一年」が12月で構成されていることから、これが「全体・完全」を表す数なのかもしれません。しかし「そうだ」とは言われていないのであくまで推量になってしまいます。
 ところが、「12神」だと言いながら、この「エッダ」で列挙された神を数えていくと13ないし14になってしまいます。その矛盾については良く分かりません。
 さて、神々にまつわる物語は複数の神々が介在してきますからその名前と職分くらいを知らないと混乱してしまいますので、まずそれを簡単に紹介しておきます。
 まず「アース神族12神」ですが、ここは男性神だけです。「アース神族」に属する女神についてはその後で紹介することになってきます。スノッリの「エッダ」は一人一人紹介していくやり方をしているので便利ですが、ここでは整理して順番を少し変えて紹介していきます。ただしもちろん他にも神々がいることは物語の中で明らかで、第一オーディンの兄弟で世界の形成に尽力していた「ヴィリ」と「ヴェー」が12柱の神々として名前があげられておらず、他にもここで言及されないけれど他の物語で名前が挙げられてくるアースの神がたくさんおりますのでここではとりあえず「主要神」を列挙していると理解しておきましょう。

「アース神族12神」
1、オーディン
 主神が「オーディン」となり、彼は「アルファズル(万物の父)」と呼ばれるとされ、他の神々も強力ではあるけれど、ちょうど子が父に仕えるように彼に仕えているとされます。しかし、物語の中で彼は専制的に振る舞っているわけではありません。
 ちなみに、この「オーディン」のアングロ・サクソン発音が「ヴォーダン」となり、これが「Wedneの日」つまり「Wednesday(水曜日)」として今日まで英語に保たれてきました。他の北欧言語でも、発音こそ違え同様ですが、興味深いことにドイツ語だけは彼の名前を残しておらず、Mittwochといって「週の真ん中」というつまらない言い方になっています。ということはドイツのゲルマン民族はオーディンを主神としていたのではなく火曜日に名前を残している「テュール」か、木曜日の「トール(ドナール)」かどちらかが主神であってヴォーダンは存在しなかったか小さなものであった可能性が考えられます。オーディンについては別途大きく取り扱いますが、彼の最後は世界終末戦争において妖怪狼に飲み込まれてしまうものでした。

2、トール
 そのオーディンに次いでいるのが「トール」だと紹介されます。主神オーディンをのぞき、「アース神族」を代表する神というわけなのか「アースのトール」と呼ばれると紹介されます。たくさんある神々の物語の中でもこの「トール」にまつわる話が一番おもしろく、人柄(神柄?)としては単純・豪快・短気でかんしゃく持ちだけれどユーモラスで憎めないといった豪傑の風情で、ギリシア神話での英雄ヘラクレスのようなイメージとなります。彼の得意技は「ミョルニル」という「槌」をとばして相手の頭蓋骨を粉々にしてしまうことで、それはもう山をも打ち砕くといった風情ですから敵は誰よりもこのトールを恐れていると言われます。
 彼は二頭の山羊に引かせた車にのっているため「車のトール」といわれ、この山羊の車に乗って「槌」を振りかざしている姿が「トールのイメージ」となります。そのためか彼は「雷神」に間違われてしまったようで、ドイツ語での「雷」という言葉は彼の名前に由来していますが(Donner)、しかし「エッダ」による限り同一視はしていません。
 このトールの活躍は群を抜いているため、ノルウェーなどスカンディナビア地方においてはトールが主神であったのだけれど、それがオーディンを主神とする他のゲルマン人部族に押されて主神の地位を奪われたのだろうと推定されています。それというのもトールは単独で多くの神殿を持ってまつられていた形跡があり、地名や人名にトールにゆかりの名前が多いということが指摘されています。したがって彼の名前も英語の曜日に残り「Thurの日」つまり「Thursday(木曜日)」になります。ドイツ語でも表記がDonnersとなりますが、木曜日はDonnerstagとなります。彼は世界終末戦争において人間世界を取り巻く海に巣くう巨大な毒蛇と戦うことになり、それを倒すことはできましたが彼もまたその毒蛇の毒を吸ってしまったため倒れていきました。

3、テュール
 次に「テュール」です。彼はここでは「アース神の一員」としての優れた働きくらいしか紹介されていませんが、「トール」がそう考えられているのと同じく彼もおそらく原ゲルマン人ないし部族によって「オーディン」以前に主神として崇拝されていた神ではないかと考えられている神です。
 その名残が「Tueの日」という彼にちなんだ曜日が今日まで英語に残ってきました。いうまでもなく「Tuesday(火曜日)」です。ドイツ語ではDienstagとなります。
 エッダでは彼は「何者も恐れない大胆さ」を持つ神として戦士が祈るべき神とされています。彼は世界終末戦争において地獄の番犬と戦い相討ちとなっています。

4、バルドル
 ついで「バルドル」です。彼についてはその「容姿の美しさ」がたたえられ、またアース神の中でもっとも賢く雄弁であると言われます。また誰にも好かれるその善良さと人望は彼の死の物語の中で遺憾なく描かれてきます。「神々と世界の終末」の後、新たなる世界に生きる神の一人として彼は冥界から戻るのであり、そうした重要性を持ちます。

5、ヘイムダル
 次に「ヘイムダル」ですが、彼はこの神々の世界を敵である巨人族から見張っている神であり、夜も眠る必要を感じず、夜の暗闇でも何処までも見通せ、草や羊の毛が伸びる音まで聞き逃さないと言われます。世界の終末の戦いの時、彼は角笛を吹き鳴らして神々やこの日に備えていた英雄たちを呼び集めると言われます。世界終末戦争において彼は裏切り者の「悪神ロキ」と戦い相討ちとなっています。

6、ブラギ
「ブラギ」という神がおり、かれは賢く雄弁で、とりわけ「詩」にもっとも長けているおり「詩」は彼に由来すると言われます。
7、ヘズ
 「ヘズ」という神は非常に力のある神でしたが「盲目」であり、そのため悪神ロキにだまされて「バルドル」を死に追いやってしまうという悲運の神となります。彼は世界終末の後、新たな世界にバルドルと共に再生してきます。

8、ヴィーザル
 「ヴィーザル」は「トール」に次ぐ強さを持つとされますが「無口」で姿としては「厚い靴」をはいていると描写されています。彼は世界終末戦争においてオーディンが妖怪狼に食われて命を落としたとき、すぐさまその仇をうつ働きを示し、新しき世界に生き残る神の一人となっています。
9、アーリ
 「アーリまたはヴアーリ」という神は「オーディンとリンド」の間の子で「名射手」だと言われます。彼もまた世界終末戦争で生き残る神の一人でした。

10、ウル
 「ウル」というのは「トール」の子で、決闘の折にはこの神に祈れと言われ、また「スキーの名手」だといわれるのがいかにも北欧の神の性格を表しています。ノルウェーで広く崇拝された神らしく、地名にその名残を残しているとされます。

11、フォルセティー
 「フォルセティー」という神は、何かもめ事をもっていくと必ず和解して帰らすといわれ、神々と人間のためのもっともよい法廷であると言われます。

12、ニョルズ
 実は「エッダ」では早くに紹介される神なのですが、この神の出身が「アース・ガルド」ではなく「ヴァナ・ヘイム」に住む「ヴァンル神族」であるため別にしました。名前は「ニョルズ」といいます。彼がこの「アース神族」の中に数えられることになったのにはあるいきさつがあって、「アース神族」と「ヴァンル神族」とが戦いになり、結局決着がつかずお互いに人質を差し出すことで和解したという事件がありました。この時「ニョルズ」が人質としてアース神族の世界に送り出されてきたというわけでした。こうして「ニョルズ」は「アース・ガルド」の住人になったのです。
 彼は風を支配し、海や火を鎮めるので「航海や漁」の時には彼に祈るべきとされます。彼は大変に裕福で財産家であり、祈願する者に土地でも動産でも与えることができると言われています。次に見られるようにニョルズたち「ヴァンル神族」は平穏で豊かで平和的です。この「アース神族」と「ヴァンル神族」との争いは侵略者と原住民の戦いを歴史的背景にしていると考えられ、「ヴァンル神族」の方が原住民だと考えられています。

13、フレイ
 「フレイ」という名前の神がこの「ニョルズ」の子どもとして生まれており、従って彼も「アース・ガルド」の住人となります。この神は眉目秀麗である上に力も強く、何より雨と太陽を支配し、大地の成長を司り、豊穣と平和の神であると言われます。というわけで人間の「福祉」も司っていると言われ、もっとも有名な神だと言われます。
 世界終末戦争においては、彼はもっとも恐れられる「灼熱の国のスルト」と戦い、死闘を繰り広げましたが以前に宝剣を失っていたため、それが命取りとなって倒れていきました。

14、ロキ
 以上までが一応「オーディンと12神(合わせると13神)」ということになるのでしょうが、「エッダ」はこれに加えて「アース神の中傷者、あらゆる嘘の張本人、神々と人間の恥」とも呼ばれる者が「アース神の仲間」にいる、として紹介されてくるのが「ロキ」という名の神でした。この神は「巨人族」の出身なのですがこの「アース神」の仲間として「アース・ガルド」におり、さまざまの「トラブル・メーカー」となってきますが他方で神々を救うこともあり、ひどく気まぐれな神です。スノッリの「エッダ」による神々の物語というのは多くが彼に関係してきて、非常に特徴的なゲルマン神話の性格を作ってくるのは実にこの「ロキ」だといえるのでした。彼については別個に特別に取り上げて紹介していきます。

「アースの女神たち」
 彼らに次いで「女神」が紹介されていきますがここは「12神」とはされていません。彼女たちは全員が物語の中で活躍するわけではありませんが、ゲルマン人が大事とした「職分」のあり方が見えてきますので以下に列挙していきます。ただ「ヴァンル神族」に属する神で今は「アース神族」にいるフレイの妹「フレイア」は非常に大事なので最初に特別扱いで紹介します。

「フレイ」
 「エッダ」では六番目に挙げられる「フレイ」ですが、彼女は「主神オーディンの妻であるフリッグに並ぶもっとも優れた女神である」と言われてきます。彼女は「ヴァンル神族」の人質として「アース神族」の中にきたニョルズの娘ですから、普通に考えれば「人質の娘」ということで地位などもっとも低いくらいに位置づけられそうなのですがそうではなく「最高女神フリッグに並ぶ」とされているのは「ヴァンル神族」の重要性を物語っていると考えられます。これはすでに兄の「フレイ」も同様であり、彼はもっとも高名な神であるとされていましたし実際重要神として活躍しています。
 この事情はおそらく歴史的な事実として「オーディン」を最高神とする部族が移動して来て「原住民」と出会い、争いの中で和解して融合し、オーディンを神とするゲルマン人が優位ではあるものの原住民も十分なる社会的地位と待遇を受けることになり、その事情が原住民の主要神がオーディンの神体系の中に入れられていったと考えられます。その原住民の主要神が「ニョルズ、フレイ、女神フレイア」だったのだと考えられるわけです。ですから男神の場合は支配者のシンボルそのものですからオーディンと並ばないまでも主要な神としての地位を得、女神の場合は「並ぶ」とまで形容できるような位置にあったと考えられるわけでした。
 その「フレイア」は、戦において生じた戦死者の半分を選び取り、後の半分をオーディンに渡すとされていますからその権威は大変なものです。ちなみに戦死者はやがて来たるべき世の終末に備えてこの「アース・ガルド」で客分として歓待されつつ武芸に励んでいるのでした。また彼女は貴婦人のシンボルであり恋愛問題での祈願は彼女にするべきとされています。
 こんな事情で、またさらに名前も似ていることから彼女は「フリッグ」と混同されるようになったようでした。しかし少なくとも「エッダ」でははっきり区別されています。

1、 フリッグ
 「エッダ」に戻って、まずもっとも重要な女神とされるのがオーディンの妻である「フリッグ」となります。彼女の重要性は「Frigの日」つまり「Friday(金曜)」に名前が残っていることにも現れています。彼女は予言こそしないけれど人間の運命をすべて知っているとされます。フェンサリルというたとえようもない豪華な館に住んでいると紹介されています。

2、 ついで「サーガ」といわれますが彼女については「大きな館」くらいしか言われていません。

3、 次に「エイル」とされ彼女は「医者」だとされます。

4、 次が「ゲヴィウン」で彼女は「処女神」であり、嫁入り前に死んだ者が彼女に仕えているとされています。

5、 次に「フッラ」で彼女も処女神であり、「女神フリッグ」の世話をし、その秘密にあずかっていると言われます。

6、 ここに「フレイア」が挙げられているのですが、彼女は女神の中では最初に紹介しておきました。

7、 「シェヴン」という女神は「恋愛」を司るとされます。それ故「恋愛はシアヴニ」と言われるとされます。

8、 「ロヴン」という女神ですが、彼女は人間の祈願に対して親切であり、禁じられた愛であっても結びつける「許可」を持っており、それゆえ「許可」というのは「ロヴ」といい彼女にちなんで言われるとされます。

9、 「ヴァール」は男女間の誓いを司り、その誓いを破る者に復讐するとされます。それゆえ「取り決めをヴァールと言う」と言われます。
以上の三人はいずれも「男女の仲」に関係する神であり、どうもゲルマン人はこの「男女間」のあり方に並々ならぬ関心を持っていたと思われます。

10 「ヴェル」は探求・詮索を好み「聡明」な女神であると言われます。それ故女性が何か知ったとき「ヴェルになる」という言い回しがあるのだといわれます。

11 「スュン」は館の扉の番をしており、入ってはならぬ者を拒否し、異議を唱える性格を持つとされ、それ故人が何か「否認」するときには「スュンがおかれる」と表現されるとされます。

12 「フリーン」はフリッグが守護しようとする者の後見役であり、そのため「身を守ることをフレイニルという」とされます。

13 「スノトラ」は聡明で立ち居振る舞いが上品であり、そのため節度のある人々を「スノトル」と言う、と言われます。

14 「グノー」は「フリッグの使者」として天地を駆けめぐる女神で、そのため高く駆ける者を「グネーヴァル」と呼ぶのだ、と言われます。

 以上7〜14までの8人の女神は「語源の説明」であったことも了解されると思います。ギリシャでも神々の名前がそのまま太陽や月や虹や曙などの自然事物や現象、また人間の内面、愛とか憎しみとか平和とか勝利とかを表していたわけで、これはむしろそうした事象を神格化したことに由来しているわけです。これは実は「男神」のところでもあって、「ブラギ」という神は雄弁であるとされていましたが、それ故「男であれ女であれ、雄弁な者は男のブラグ、女のブラグと呼ばれる」などと言われていました。

 女神についてはその他に
「ソール(太陽)」という女神、「ビル(月の神マーニのつきそい)」もいる、と「エッダ」は言ってきますが、それより「男神」の紹介のところで言及された「妻」たちの中でも重要なのが抜かされているのが解せません。たとえば「ブラギの妻イズン」ですが、彼女は神々が年取った時に食べなくてはならぬ「リンゴ」を持っていて、それを食べることによって神々は世の終末まで若くしていられるのだ、と語られています。「不老を司る女神」というわけですからもっとしっかり紹介されてもいいと思うのですがこんな程度でした。

敵役
 神々の敵役となるものたちもたくさんおりますが、その中で神々の物語を追うために必ず覚えておかなければならない名前は次の二人となります。

1、スルト
 まず「灼熱の国のスルト」ですが、彼は世の終末においてこの世界を焼き尽くすとされていて、これは世界の創世のはじめからそう運命づけられていたようです。実際この世界が生じてきたのもこの「灼熱」の作用だったわけですから「終わり」もこの灼熱の作用によるというのも筋は通っているわけでした。ですから敵役というより世界の必然のようなものですが、しかし彼が「攻め寄せてきて」世界は燃えつくすとされています。これに立ち向かった神が「ヴァンル神族」出身で今は「アース神族」にいる有力神「フレイ」であったわけでした。

2、ロキ
 「ロキ」は先に少し紹介しておきましたが、もともと「アース神族」に先行する巨人神の末裔で「アース神族」に敵対する「巨人神」に属していた神とされ、いきさつはよくわからないのですが今は「アース神族」に属し、気まぐれでひねくれ者であり、神々を助けたり、ひどい中傷をしたり、神をだまして仲間の神を殺させたりといったトラブル・メーカーです。ついに神々の怒りを買って幽閉されてしまいますが、世界の終わりにはここを抜けだし神々の敵の一軍を率いて攻め寄せてくる「最大の敵」となっていきます。彼に立ち向かったのがこの日に備えてこれまで世界を見張っていた有力神「ヘイムダル」で、二人は相討ちとなりました。彼については別に一章を割いて紹介します。

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