3.ギリシャ神話、その主題と旋律 - 20. トロイからの帰還物語 | 小澤 克彦 岐阜大学・名誉教授

ギリシャ神話、その主題と旋律
HOME
INDEX
1. ギリシャ神話とは
2. ギリシャ神話の日本語資料
3. 宇宙ないし神々の生成の物語
4. クロノスの一族
5. プロメテウスの神話
6. オリュンポスの神々の物語
7. 神々の「恋」と「異性関係」
8. 闇の神々
9. 神話を彩る妖精たち
10. 英雄ペルセウス伝説
11. 豪傑ヘラクレス伝説
12. アルゴー船伝説
13. テセウス伝説と迷宮の神話
14. テバイを巡る三つの伝説
15. 英雄アムピアラオス伝説
16. トロイ戦争伝説の大筋
17. トロイ戦争の発端と前夜
18. トロイ戦争(ホメロスの『イリアス』全24巻の内容)
19. トロイの落城にまつわる諸伝承
20. トロイからの帰還物語
21. 星座のギリシャ神話、
黄道12宮の星座物語

20.

トロイからの帰還物語

「諸将の運命」 「ホメロスの『オデュッセイア』全24巻の内容」


諸将の帰還
 ギリシャ軍がトロイの城に火を放って壊滅させたあと、彼等はおのおの帰国ということになったのだが、「アイアス(トロイとの戦いで大活躍した剛勇のアイアスではない別人のアイアスで、したがって前者を大アイアス、後者を小アイアスと呼ぶ)」が、女神アテネの聖域に逃れて保護を乞うていたトロイの王女カッサンドラを犯してしまうという事件を起こしたため、ギリシャ軍全体が女神アテネの怒りを買うことになってしまう。
 この女神の怒りは、予言者カルカスによって明かにされたので、ギリシャ勢はこの小アイアスを「女神に対する不敬罪」の罪で処刑しようとする。ところが彼は「祭壇」に逃げ込んでしまい、そのためギリシャ勢は彼を処刑することができなくなってしまい、やむなく放置することになってしまった。
 その後彼等は話し合いをもったが意見は一致せず、アガメムノンは女神アテネの怒りをとくために犠牲式を執り行うということでしばらくこの地にとどまることにし、メネラオスは早く帰国をということで出航してしまう。そしてその他の武将達もてんでにバラバラの行動になっていく。この辺りはもうホメロスでは描かれていないわけだが、例によってアポロドロスに詳しく報告されている。
 有名な武将を見ると、攻撃型の勇士で神アレスをも傷つけたティリンスのディオメデス、そしてピュロスの老将ネストル、そしてヘレネの夫であったメネラオスとは同時に出航したが、ディオメデスとネストルは何の障害もなく無事に帰国したことが報告されている。
 しかしメネラオスは、アテナイの南のスーニオン岬のところまで着たものの、そこから流されて「クレタ島」まで漂流してしまう。さらに、その後彼は北アフリカにまで流れ、エジプトで本物のヘレネに再会したとされる。この、エジプトにヘレネが留め置かれていてトロイに居たのは「雲から造られたコピー」だという伝承は何時からつくられたのかはっきりしないが、エウリピデスの劇『ヘレネ』で物語化されて良く知られた話しとなっている。そしてメネラオスは八年放浪してやっとスパルタに戻ったとされ、アポロドロスではその放浪の中で多くの財宝を集め、また不死とされたヘレネと共に「エリュシオンの野(立派な人生を送った者が死後住むという一種のパラダイス)」に住むことになったと言われている。これは「神ゼウスの血を引くヘレネ」の夫だからということなのであろうが、後代になって一種異様なほどの「ヘレネ弁護」から「ヘレネ賛美」がおきたようで、先のエウリピデスの劇を始めとしてこうした少々訳の分からない話しも作られたようであった。
 総大将であったアガメムノンの帰国の物語はアイスキュロスの『オレステス三部作』で名高いように、帰国した途端に娘イピゲニアの怨みということで妻クリュタイメストラに殺され、さらにクリュタイメストラは実の息子オレステスに殺され、オレステスは流された母の血から生じた復讐の女神エリニュスに狂気とされて諸国を流浪し、タウリケで女神アルテミスに助けられていた姉イピゲニアに再会し(これはエウリピデスの劇『タウリケのイピゲニア』で良く知られている)やっと女神アテネによってアテナイにおいて釈放されるという物語となっていく。
 予言者カルカスは、陸路故国に向かうが、途中コロポンというところで同じ予言者と出会い、予言競争となって負けてしまい、カルカスは自分より優れた予言者に出会った時に死ぬという運命を持っていたためにその地で死んでしまう。
 アキレウスの息子で最後に参戦してきたネオプトレモスは、帰国途中にモロッソスを滅ぼしてそこを支配したりといろいろありながら故国に戻り、祖父ペレウスが死んだ時その王国を継いだが、先に紹介したアガメムノンの遺児オレステスの婚約者であったヘルミオネを奪ったために、デルポイでオレステスに殺されてしまう。アポロドロスはこれについて異説も紹介しているが、それによると父アキレウスを殺したのはアポロンであるということでデルポイのアポロンの聖域を略奪したり神殿に放火したりしたため、デルポイを守るポーキスの人によって殺されたと言う説も紹介している。いずれにしろどうも彼はデルポイで殺されたという伝承になっていたようである。

アポロドロスはその他のギリシャの個々の戦士の運命をたくさん紹介しているが、それによるとさまざまの土地に流れてそこに住み着いたとなる。これらの伝承は、かつてギリシャ人が各地に入植していったその思い出が込められていると思われる。

「オデュッセウスの漂流」
 こうしたトロイの戦士達の帰国物語の中でもっとも有名なのがホメロスによってまとめられたとされる「オデュッセウス」の帰国物語となる。
 アポロドロスは、先ずオデュッセウスは一説によれば「リビア」を、一説では「シケリア」を、一説では「オケアノスの海」、一説では「テュレイア海」をさまよったと紹介し始める。「リビア」とは北アフリカ、「シケリア」とは南イタリア、「テュレニア海」は北イタリアに相当し、「オケアノス」は地球を取り巻いている海だから地中海の外「大西洋」を意味しそうである。ようするに彼はどうも地中海全域をさまよっていたとなりそうである。『オデュッセイア』の記述から彼の漂流を復元してみようという試みも為されているが、どうもはっきりしないものの確かにトロイからエーゲ海を通り過ぎ北アフリカからシケリア島まで流れて、さらに地中海全域に及ぶような感じがする。この『オデュッセイア』にせよ『アルゴー船物語』にせよ「海洋冒険伝承」は一人の英雄の事跡であるより、遠く船出して地中海の各地に入植していったギリシャの先史時代の多くの先駆者たちの勲が込められていると考えた方が自然なので、こうした範囲になってくるのも了解できる。

『オデュッセイア』の各巻の内容
 このオデュッセウスの冒険をホメロスの『オデュッセイア』で追ってみる。叙事詩としての設定は、すでにトロイ戦争から十年が経っており、オデュッセウスは海の神ポセイドンの呪いによって今だ帰還が敵わず「女神カリュプソーの島」にとどめ置かれており、一方故郷では妻ペーネロペイアが多くの求婚者に攻め立てられ館は荒らされている、となっている。

第一巻。「神々の会議。女神アテネのテレマコスへの勧告」の巻
 トロイ戦争から十年。神々の会議の席で女神アテネは、ポセイドンはもう十分過ぎるほどオデュッセウスを苦しめてきたのだから、もういい加減に彼を故郷に帰すべきだと説き、それが認められて使いの神ヘルメスはオデュッセウスが現在とどまっているカリュプソの島へと向かう。一方、女神アテネはオデュッセウスの友人の姿となってテレマコスのところに行き、求婚者たちへの弾劾を勧め、また父オデュッセウスを探しに行くよう励ます。そして詩人ペミオスは、あたかもオデュッセウスの苦労を歌うようにギリシャ軍のトロイからの帰国の不幸の数々を歌っていく。

第二巻。「イタケの会議とテレマコスの出発」
 その「父の友人の姿をとった女神アテネ」の励ましに従って、テレマコスは「イタケ人」を召集して会議を開き、求婚者達の理不尽さと自分の権利の主張をしていく。しかし、求婚者達は彼を嘲り、求婚に応じないペネロペイアを責め、また父探索のための船を要請するテレマコスにたいして求婚者たちはこの会議を解散にしてしまう。
 しかし、父の友人の姿をしている女神アテネが船を手に入れてきて、テレマコスは密かに食料を積み込んで、母ペネロペイアには秘密のまま「友人の姿の女神」と共に出航していく。

第三巻。「ピュロス」
 テレマコスは女神とともに「ピュロスの老将ネストル」の館を訪れる。しかし、ネストルは他の大将の消息や総大将アガメムノンの非業の死などについては知っているけれどオデュッセウスの消息については何も聞いていないということを告げる。だが、スパルタのメネラオスが漂流の末に最近戻ってきたので何か知っているかもしれないとテレマコスに助言し、テレマコスはその助言に従って翌日の朝旅だっていく。

第四巻。「スパルタ」
 テレマコスがメネラオスの館を訪ねると、丁度息子と娘の二重の結婚式でにぎわっているところで、常にも増した歓待となる。そしてメネラオスは、自分が漂流中エジプトで聞いたオデュッセウスの消息を話して聞かせる。
一方、イタケ島ではテレマコスの探索の旅を知った求婚者が彼の暗殺を計画していく。ペネロペイアはそうしたいきさつを知って嘆き、女神アテネに慰められる。

第五巻。「カリュプソの洞窟」
 一方、神々の会議でオデュッセウスの故郷帰還を認めたゼウスは、使いの神ヘルメスを遣わしカリュプソにオデュッセウスを船出させることを命じる。カリュプソは悲しみ嘆くが、主神ゼウスの命令とあっては断るわけに行かず、またオデュッセウスの願いでもあるということで悲しみをこらえ、小舟を作ってオデュッセウスを海に出してやる。ところがポセイドンはしつこく、オデュッセウスを見つけると嵐を送って船を粉みじんにしてしまう。そうしたオデュッセウスを海の女神「イノ」が守り、オデュッセウスは裸のまま島に流れ着き疲れのため繁みの影で倒れ眠ってしまう。

第六巻「パイアケス人の島」
 その島は「パイアケス人の島」であり、「王女ナウシカ」が洗濯をするために侍女を連れて河にやってきていた。そして洗濯物が乾く間遊んでいて、その声にオデュッセウスは目をさまし裸の身体を木の枝で隠して救助を求めて這い出していく。侍女たちはびっくりして逃げだすが、ナウシカは落ち着いて彼を王宮へと案内していく。なお、このナウシカは気丈で可憐、愛らしくまた賢くもあるため人気があり、「風の谷のナウシカ」はこのナウシカに名前をとっている。

第七巻、八巻。「アルキノオス王の館と競技会」
 七巻、八巻は続いており、パイアケス人の王「アルキノオス王」の館での歓待が描かれる。オデュッセウスはアルキノオス王の元に来て歓待され、「カリュプソの島」から出航した以降の出来事を話す。アルキノオス王はそうしたオデュッセウスに船を用意してあげることを約束し、また歓迎のための競技会を開催する。ここで、立派な身体なのに競技に加わろうとしないオデュッセウスを侮辱した者がおり、それに応えてオデュッセウスは一番重い円盤を一振りで誰よりも遠く飛ばして見せる。そして夜の宴会となり詩人デモドコスが「トロイの陥落」の次第を歌うのを聞いて密かに涙を流す。しかしそれをめざとく見た王は不審に思い、オデュッセウスの正体を明かすよう求める。

第九巻から十二巻。「オデュッセウスの冒険」
 ここから続く四巻が、いわゆるオデュッセウスの冒険談となる。オデュッセウスはここではじめて本名を名乗り、自分こそあのトロイ戦争の大将の一人イタケの王オデュッセウスであることを明かす。そして「キコノス人の町の攻略」「その実を食べるとすべてを忘れるというロートスパゴイの国」「一つ目の巨人キュクロプスの島」でのポセイドンの子ポレュペモスとの出来事を話していく(九巻)。
 さらに、「風の使い手アイオロスの島」「人喰い人種ライストリュゴンの島」「魔法によって人間を豚に変えてしまうキルケの島」そこから「死霊の神託所」への訪問などを話していく(十巻)。
 そしてその死霊の神託所でのテイレシアスの予言、トロイでの仲間達の亡霊、神話に名高い者達の姿を見たことを話す。これが十一巻の内容となるが、この巻は死霊たちとの話しというわけで一種独特の雰囲気を持ち、もっとも興味深い巻になっている。
 さらに、キルケによる諸注意、そしてその島からの出航、「音楽で人を惑わす人鳥セイレン」「六頭の犬の頭を脇腹に持つ妖怪スキュラと海の水を飲み込むカリュブデスの水路」「太陽神の島」で牝牛を食べてしまい再び難儀が生じ部下をすべて失ったこと、そしてやっと「カリュプソの島」にたどり着いたことが話される(十二巻)。

第十三巻。「オデュッセウスの帰国」
 パイアケス人はこの長い話しを聞き終えると感嘆して、オデュッセウスに贈り物を与えイタケへと彼を送ることにする。夜明け前にイタケの町にほど遠からぬ入り江に着くとパイアケス人は、寝ているオデュッセウスをそこに置いて戻って行く。ところが、しつこいポセイドンはオデュッセウスを歓待したパイアケス人に怒り、その船を石に変えてしまう(これは、「船形の岩」か何かあって、その由来話となっているのであろう)。
 一方、目覚めたオデュッセウスの前には少年に身を変えた女神アテネが現れ、現在いる場所を教え、さらに彼の姿が見とがめられないよう乞食の姿に変えてやる。

第十四巻。「エウマイオスの小屋」
 オデュッセウスは乞食の姿で、召使いであった「豚飼いのエウマイオス」の小屋を訪ねる。エウマイオスはもう二十年オデュッセウスと会っておらず、また乞食に身をやつしている主人をそれとは分からなかったが、難儀の旅人ということでこの客人を歓待する。オデュッセウスはあくまでも慎重に正体を隠しておき、クレタからの旅人として、オデュッセウスの帰国が近いことを自分が聞いた話として話す。もちろんエウマイオスは信用せずに主人のオデュッセウス、また探索の旅に出た息子テレマコスも死んでいるだろうと思っていた。しかし彼は忠実な召使いであったので、それを悲しみ主人への忠誠心が失われていないことを明らかにする。

第十五巻。「テレマコスの帰国」
 テレマコスは、メネラオスの館から帰国することにしたが、求婚者たちの待ち伏せを女神アテネに教えられて、密かに町から離れたところに上陸し、忠実な召使いである「豚飼いのエウマイオスの小屋」に徒歩で向かう。
一方、そのエウマイオスの小屋では、エウマイオス自身の身の上話が為され、彼は立派な家に生まれたもののさらわれて奴隷にされ、今の身分になってしまったことを話す。そして、オデュッセウスに町への道を教える。

第十六巻。「オデュッセウスとテレマコスの再会」
 テレマコスはエウマイオスの小屋に来て、自分が無事帰国したことを母ペネロペイアに報告させに使いとして送り出す。小屋にはオデュッセウスとテレマコスの二人だけとなったところで、女神アテネがオデュッセウスの姿を元に戻し、こうして「親子の再会」となり、ここで二人は求婚者退治の計画を立てていく。
 一方、テレマコスを殺そうと待ち伏せしていた求婚者たちは、テレマコスが現れないのでスゴスゴと戻っていった。

第十七巻。「テレマコス館に戻り、オデュッセウス町に入る」
 テレマコスは館に戻るが、計画が漏れないよう母にはオデュッセウスの帰国は伏せておく。
 再び乞食の姿に身を変えたオデュッセウスは、エウマイオスと一緒に町に入る。そして館のところに来たときに老犬が一匹汚いまま放置されているのに出会う。その犬はオデュッセウスの愛犬「アルゴス」であった。アルゴスはもはや死にかけていたが、乞食姿のオデュッセウスが近づいた時、彼は「主人」と分かって身をもたげ、からだ一杯に喜びの表情を示した後、力つきて主人の腕の中で死んでいった。
 そうしたオデュッセウスのところに、召使いの山羊飼いのメランティオスが通りかかりオデュッセウスを侮辱していく。彼は求婚者たちと通じて主人の后であるペネロペイアを裏切っていた男であった。
 オデュッセウスは乞食として館に入り「物乞い」をするが、求婚者の一人アンティノオスはオデュッセウスに腰掛けを投げつけてくる。

第十八巻。「オデュッセウス、乞食のイロスと争う」
 求婚者たちはオデュッセウスを追い出そうと、傍らの乞食イロスに命じるが、オデュッセウスは立ち向かってきたイロスを簡単に吹き飛ばしてしまう。
 ペネロペイアはそれらを見ていて、求婚者たちが乞食に対していたわりがないことを非難し、贈り物をもってくるよう要求する。
 ここで、侍女の一人がオデュッセウスを侮辱し、また求婚者の一人エウリュマコスがオデュッセウスに足台を投げつけてくるが、テレマコスが「宴は終わり」と言って帰宅を促してきたことから一同皆帰っていく。

第十九巻。「乳母、オデュッセウスの足を洗い主人と分かる」
 誰もいなくなったところで、オデュッセウスとテレマコスは部屋の中にある武器をすべて片づけていく。
 宴の後かたづけに下りてきたペネロペイアは、オデュッセウスを侮辱する侍女を遠ざけて身の上話しを始め、自分は夫を待ち続けて日中機を織っては夜それをほどいて時間を稼いできたが、それも見破られもはや追いつめられている、ということを話していく。それに応えてオデュッセウスは、まだクレタからの男と偽りつつ、オデュッセウスの帰還はすぐそこまできているということを告げていく。
 そうして客人としてオデュッセウスは、かつての乳母によって「足を洗われ」る。乳母は、オデュッセウスの足の古傷によって、この男こそ主人オデュッセウスであることに気付く。声をあげそうになった乳母をオデュッセウスは制して、まだ何も言ってはならないと口を閉ざさせる。
 一方、追いつめられているペネロペイアは、明日「弓競技」を催し、オデュッセウスの弓に弦を張り、並べた12の斧の棒を通す穴の部分を矢で通すことのできた者と結婚するということにする、と告げる。

第二十巻。「求婚者退治の前夜、予言者による広間での血の予言」
 館にあって寝られぬオデュッセウスに、女神アテネが現れ慰め励ましていく。求婚者たちはテレマコスの殺害を計画するが、とりあえず再び宴会をということで館へととって返して宴会を始める。そこに予言者テオクリュメノスが現れ、この広間は血に満ちうめき声があがり亡霊が地下へと下りていく様子が見られると言ってくるが、求婚者たちはそれをあざ笑う。

第二十一巻。「弓の競技」
 ペネロペイアは、オデュッセウスの強弓を取り出し、12の斧を真っ直ぐに並べ、取っ手の棒を抜いて、この頭の部分の穴に矢を射通すように言ってくる。求婚者達は次ぎから次ぎと試みていくが、弓を引くどころか弦もかけられない始末であった。それを片目にオデュッセウスは外に出て、豚飼いのエウマイオスに自分の正体を明かしていきます。さらにまたやはり忠実な召使いである牛飼いにも正体を示して味方としていく。
 そして再び広間へと引き返し、競技をあきらめ宴会にしようという求婚者たちに対してオデュッセウスはその弓を引かせて欲しいと頼んでいく。求婚者たちは拒否するが、ペネロペイアがそれを許し、エウマイオスが求婚者の手から弓を奪いオデュッセウスに手渡す。それをみて乳母は、広間の奥の入り口を閉ざし、牛飼いは中庭の扉を閉め切ってしまう。
 オデュッセウスは弓をとると、軽々と弦を張って矢を放つと見事に12の斧の頭の穴を射通していった。驚く求婚者をしり目に、武装したテレマコスが父オデュッセウスの傍らに立っていく。それ以前にテレマコスは母ペネロペイアを二階の自室に引き上げさせておいた。

第二十二巻。「求婚者たちを退治する」
 オデュッセウスは求婚者たちに正体を明かし、次ぎ次ぎと矢を射かけ、テレマコスは武装姿で槍を持ち、二人の忠実な召使いもおのおの武装してオデュッセウスの傍らに立つ。
 求婚者たちも山羊飼いに命じて武器をとりに行かせ、彼は12人分の武器を持ってきたが、再度とりに行ったときに豚飼いと牛飼いとが追いかけてこれを捕らえ縛り上げてしまう。広間では激しい戦いが繰り広げられ、遂に求婚者たちはことごとく討ち果たされてしまう。オデュッセウスは、裏切り者の山羊飼いと求婚者達に通じていた12人の侍女達を引き据えて処刑していく。

第二十三巻。「夫婦の再会」
 ことがすべて終わった時、乳母は喜び一杯に二階によろめき駆け上がり、自室に引き下がっていたペネロペイアにことの次第を報告する。ペネロペイアは、始めそれを信じなかったが、ベッドに込められた秘密によってついに事実を知り、夫婦の再会となっていく。
 オデュッセウスは妻にこれまでの冒険を語り、翌朝、テレマコスと広間で共に戦った二人の忠実な部下である豚飼いのエウマイオスと牛飼いのピロイティオスとを伴って、父であるラエルテスの隠居所の庭園へと赴く。

第二十四巻。「求婚者たちの一族との和解」
 殺害された求婚者たちの亡霊は冥界へと下りていき、アキレウスとアガメムノンとに出会って自分たちの運命を話す。
一方、オデュッセウスは果樹園で働いている父をみとめ、ここに父子の再会となっていく。
 他方、殺害された求婚者達の親族は仇をとろうとオデュッセウスを追いかけ果樹園に押し掛けてくるが、そこに女神アテネが現れて両者を分け、和解させていく。

オデュッセウスの海洋の冒険(九巻から十二巻の内容)
 彼九巻から十二巻がオデュッセウスの海洋での冒険となるが、その内容は以下のようになる。先ず「キコノス人」の町を略奪することからはじまるが、ここで彼は略奪の後に反撃にあって逃げだし「ロートパゴイ」の地に来たとされる。
 この「ロートパゴイ」というのは「ロートス」を食する人々ということで、「ロートス」とは「蓮」になる。しかしこの「蓮」はただの「蓮」ではなかったようで、偵察にきたオデュッセウスの部下はこれを食べると何もかも忘れてここに留まろうとする。アポロドロスでは「甘い果物」と紹介されているが、うまさのあまりすべてを忘れるというわけであろう。これを知ったオデュッセウスは残りの部下を船にとどめて、これを食べてしまった部下を力づくで連れ戻して出航していった。

 ついでやってきたのは「一つ目の巨人キュクロプスの島」であった。オデュッセウスは部下十二人だけを連れてこの島に上陸し、洞穴を見つけて入っていく。そこはキュクロプス族の一人「ポリュペモスの洞穴」で、彼は「海の神ポセイドン」の子どもであり凶暴な「人喰い巨人」であった。そんなことは露知らないオデュッセウスは、洞窟の中で火をおこし手近にいた子羊を屠って晩餐など始めてしまう。しかしそこにポリュペモスが戻ってきて、羊たちを洞窟に追い入れて自分も入って戸口を大きな岩で塞いでしまう。
 そしてオデュッセウス達がいるのを見つけると、部下の数人をひっつかまえむしゃむしゃと食べてしまった。オデュッセウスは、携えてきた「酒」を彼に与えると一口で飲んでしまい二杯目を要求してきた。
 そしてオデュッセウスに名前を聞いてきたので、オデュッセウスはとっさに自分の名前は「ウティス」だと名乗る。「ウティス」とはギリシャ語で「誰でもない」という意味になる。ポリュペモスはそこで「酒」をもらったお礼に、お前は一番最後に喰うことにしよう、といって寝込んでしまう。オデュッセウスはそこで、傍らの棍棒を部下と一緒に大急ぎで削ってとがらせ火で焼いて、それをポリュペモスの額の一つ目のところに力一杯差し込んだ。さしものポリュペモスも悲鳴を上げて仲間を助けに呼ぶが、誰がそんなことをしたのかと問う仲間にポリュペモスは、「ウティスがやった、ウティスにやられた」と叫んだ。ところがこれはギリシャ語では「誰がやったわけでもない、誰にやられたわけでもない」となってしまうので、仲間はただの事故と思ってみんな帰ってしまった。ポリュペモスはオデュッセウスたちを見つけることもできず、朝になり何時ものように羊が外に出たがると、戸口の岩を除いて、そこからでる羊の一匹一匹の背中を触ってオデュッセウス達が乗っていないか確かめるのであった。そこでオデュッセウスは、羊の腹に部下たちをくくりつけ、自分は一番大きな羊の腹にしがみついて外に出ていった。そして羊も連れて船にもどり出帆していった。
 そしてオデュッセウスは、うろうろしているポリュペモスに勝ち誇ったように、自分の本当の名前は「オデュッセウスだ」と怒鳴ったのであった。それを聞いてポリュペモスは呻いた。というのも、彼はオデュッセウスという男によって目をつぶされるという予言が受けていたからであった。ポリュペモスは呻きながら、手近の岩を声の方に向かって投げつけてきたが、危うく難を逃れてオデュッセウスたちは遠ざかっていった。ところが海の神ポセイドンは、このポリュペモスをいたく可愛がっていたせいなのか、このオデュッセウスの仕業に凄まじい怒りを覚え、これ以降異常なまでにオデュッセウスを苦しめることになっていった。
 
 ついでオデュッセウスがたどりついたのは「アイオリア人」の島であった。そこの王はアイオロスといい、ゼウスによって「風の使い手」に任じられていた。彼はオデュッセウスを歓迎して、様々の風を封じ込めてある革袋を与えてその使い方を教えてあげた。
 おかげでオデュッセウスは適宜に適当な風を用いて順調に航海し、故郷イタケを間近にして町から煙りが立ち上っているのを見るまでに近づいたところで、ヤレヤレと安心して眠りに付いてしまう。
 ところが部下の方は、革袋に財宝が入っていると思い込み、オデュッセウスが寝てしまったのをいいことにその革袋をほどいてしまったのである。こうして船は一斉に吹き出した風によって翻弄されて逆戻りし、再び「アイオロス王」のところまで戻ってしまう。オデュッセウスは再び王に風を懇願するが、アイオロス王はオデュッセウスが神の呪いを受けているということを察知したのでそれを断り、その島から追い出してしまう。

ついでオデュッセウスは、「ライストリュゴン人」の地にくるが、そこの王は「食人種」であった。それを知らないオデュッセウスは部下を偵察に送りだすが、出会った王女が彼等を王のところに案内したところで、彼等の一人がやにわに王に食べられてしまった。残りの部下たちは慌てて逃げだしたが、王は追っ手を放ち、部下が逃げ帰った船に石を投げつけてそれを破壊し、乗り組んでいた者達を食べにかかったのであった。これを見てオデュッセウスは、船のくくり縄を大急ぎで切り放ち船を出したが、他の船はみんな破壊してしまった。

 たった一隻になってしまったオデュッセウスたちは、今度は「アイアイエの島」へとやってくる。ここには太陽神ヘルメスの娘で魔法に長けた「キルケ」が住んでいた。オデュッセウスが船に残って部下達を偵察に出し、彼等がキルケのところにくると、キルケは皆を呼び入れ歓迎した。ところが偵察隊長を務めていた部下はこれに疑問を持って、一人外に隠れていた。果たせるかな、部下たちはキルケの出してくれたごちそうを食べ、酒を飲むとみな豚に身が変わってしまった。偵察隊長は急ぎこのことをオデュッセウスに報告すると、オデュッセウスはかつて「神ヘルメス」からもらっていた「魔よけの薬」を携えキルケーの家に行く。そして出された酒を飲んでも彼の身は変化せず、そこでオデュッセウスはキルケを殺そうと刀を抜くが、キルケはオデュッセウスに頭を下げて許しを乞い、そして部下達を元に戻した。その後オデュッセウスとキルケは床を共にする。
 しかし、再び故郷を目指そうとするオデュッセウスにキルケは「死者の霊の神託所」を教え、そこで有名な予言者テイレシアスの言葉を聞くように進言し、オデュッセウスはここでかつてトロイで共に戦って今は冥界にいる多くの仲間の霊に出会って言葉を交わし、それ以外にも有名な英雄達の霊に出会っていく。

 そして海に出たオデュッセウスは「セイレンの島」に近づく。このセイレンというのは上半身は人間の女性で下半身は鳥という妖怪で三人娘であった。その一人は竪琴、一人は笛をかなで一人は歌うという「音楽の名手」であったが、この音楽を聴いた者はそこから立ち去ることができなくなるのであった。それをキルケから聞いていたオデュッセウスは、キルケの忠告通り部下達の耳は蝋で塞いでしまい、一方自分は身をマストにくくりつけさせてその音楽を聴いてやろうとした。そしてセイレンの音楽に身をもだえ縛めを解こうとするが、部下は彼をきつく縛ってついにその場所を通り過ぎていった。セイレンは、もし船が傍らを通り過ぎていったら死、という運命を持っていたためこうして死んでしまう。

 その後オデュッセウスは海路が二つに別れているところに出てくる。その一方は巨大な岩が漂っていて船をうち砕き、もう一方の水路の方には巨大な絶壁がそびえ、そこには「妖怪スキュラ」が巣くっていた。彼女は、もともとは美しい乙女だったのだが怨まれて妖怪にされてしまい、その脇腹には六頭の犬の頭と十二本の足が生えていた。この六頭の犬が下を通りかかる船から人をさらって食べてしまうのであった。一方の「漂い岩」のところには、これまた「妖怪カリュブディス」がいて、彼女は日に三度そこの海水を飲み込み、また放出するため、この水路は船にとっては航行不可能といった場所になっていた。そこでキルケは「スキユラ」の水路を進言しており、オデュッセウスは武装してスキュラに備えていたのだが、船は通れたもののやはり六人の部下を失ってしまう。

 こうして「トリナキアの島」へとやってくるが、そこは太陽神ヘリオスの島であった。ここに船が停泊していたおり、食料に尽きた部下達はそこの牝牛を屠って食料にしてしった。しかし、これは断りなく太陽神の牛を殺してしまったことなので、こうして彼等は罰をうけ、再び出航した船はゼウスの雷に打たれて粉みじんになってしまった。

 オデュッセウスはかろうじてマストにしがみついて漂流していたが、やがて流れはあのカリュブデスの所までオデュッセウスを戻してしまう。そしてカリュブデスが波とともにマストまで飲み込んで行くとき、オデュッセウスは岩に生えていたイチジクの枝を捕まえてこれにぶら下がり、再びマストが吐き出されてくるのを待っていた。

 こうしてまた出てきたマストにしがみついて海の流れのままに漂ううちに、オデュッセウスは「オーギュギアーの島」へと流れ着いた。ここには「妖精カリュプソ」が住んでおり、オデュッセウスは彼女の愛人としてここで暮らすことになった。こうして五年が過ぎていく。しかしやはりオデュッセウスは望郷の念がつのり、この島での不老不死と豊かな生活、優しいカリュプソの愛のすべてを捨てて再び小舟を作って海に乗り出していく。
 
 しかし、どこまでもしつこい海の神ポセイドンは、この小舟まで壊してしまい、丸太にしがみついて漂っていたオデュッセウスは「パイアケス人」の島へと裸で打ち上げられたのであった。ここで彼は、この島の王女「ナウシカ」と出会い、彼女の父である「アルキノオス王」の手厚い庇護を受けた後、贈り物までもらって故郷へ戻っていったとなる。しかし、異常なまでのしつこさを持つ神ポセイドンはこれにも怒りを覚え、船を石に変えてしまい、またこの町の回りに山を築いてこの町を隠してしまうという仕打ちに出るのであった。


▲ページのトップへ