3.ギリシャ神話、その主題と旋律 - 18. トロイ戦争(ホメロスの『イリアス』全24巻の内容) | 小澤 克彦 岐阜大学・名誉教授

ギリシャ神話、その主題と旋律
HOME
INDEX
1. ギリシャ神話とは
2. ギリシャ神話の日本語資料
3. 宇宙ないし神々の生成の物語
4. クロノスの一族
5. プロメテウスの神話
6. オリュンポスの神々の物語
7. 神々の「恋」と「異性関係」
8. 闇の神々
9. 神話を彩る妖精たち
10. 英雄ペルセウス伝説
11. 豪傑ヘラクレス伝説
12. アルゴー船伝説
13. テセウス伝説と迷宮の神話
14. テバイを巡る三つの伝説
15. 英雄アムピアラオス伝説
16. トロイ戦争伝説の大筋
17. トロイ戦争の発端と前夜
18. トロイ戦争(ホメロスの『イリアス』全24巻の内容)
19. トロイの落城にまつわる諸伝承
20. トロイからの帰還物語
21. 星座のギリシャ神話、
黄道12宮の星座物語

18.

トロイ戦争(ホメロスの『イリアス』全24巻の内容)


一巻。
 アキレウスの「怒りから退陣」までのいきさつ。総大将アガメムノンの無礼によるアキレウスの怒りと退陣、アキレウスの母テティスがゼウスに息子の名誉の回復を懇願することが主要な内容。
 この部分全体の特質はいうまでもなく「一人の英雄の怒り」が歌われていること。ここで我々が聞くのは「面子・恥」の問題であり、これは洋の東西を問わず「戦士ないし男」の依って立つ基盤とされてくるわけで、古代ギリシャにあってもこれが「男」の証とされているのをみるわけである。
 また我々はここで古代ギリシャの英雄時代に於ける社会構造といったものも理解できる。すなわち当時の古代ギリシャは各地に「領地」が独立していてそこに一人ずつ支配者がおり、彼等は互いに「対等」のものとしてあり、彼等が集まって何か行う時にはその中からキャプテンに相当するものが選ばれていたということになる。したがって、そのキャプテンは絶対的な権力を持っていたわけではなく、そのあり方が違うと見られたらアキレウスのように反抗して出ていってしまうことも可能であった。この構造はその領主と民衆の間にも妥当したようで、エウリピデスの悲劇『アウリスのイピゲニア』ではそのアキレウスが兵士達に石を投げつけられて追っ払われてしまう、などという場面がでてくる。つまり支配者というのはあくまで「何かの力」が認められての指導者であったわけで、先天的な権力者というわけではなかったということになる。したがって、後で出てくるが、総大将のアガメムノンに対して一兵卒に過ぎない男が侮蔑敵な言葉でいちゃもんをつけてくるなどということがあり得た。
 またこの第一巻で
「神と人間」のあり方が「アキレウスと女神アテネ」の名場面で描かれてくるのもよく知られている。つまりアキレウスが怒ってアガメムノンに斬りつけようとしたところに女神アテネが現れてそれを押しとどめる場面だが、アキレウスはまるで母親に諫められた時のような仕草でその行為を収めている。我々にとっては「神」とは「超越なるもの」「絶対者」と理解する。しかし古代ギリシャにあっては決してそんな具合ではないのであって、神とは人間にとっては「擁護者・指導者」のようなものという性格を持っていたことが、早くもここから示されてくる。
 一方これから描かれてくる英雄達の武勲や逆に力の喪失、励ましや策略などなどの働きはことごとく「神のなせる業」とされてくる。英雄が敵を討ったときもそれは例えば「女神アテネが槍を導いて敵のこめかみへと突き刺した」といった具合になり、「女神アテネがオデュッセウスに現れて」とか「神アポロンがパトロクロスから力を奪い」とかその他重要な働きはすべて「神による」とされてくる。これはつまり「神とは力の根源」であったとの認識によるものであったからであろう。
 
第二巻。
 ここではアガメムノンに遣わされたゼウスからの「夢」が注目される。古代世界では「夢」というのは「神意」を現すと考えられていることが多く、古代ギリシャでも同様。哲学者ソクラテスですら自分の使命が「夢によっても告げられた」と語っているほどである。これが後に「医神アスクレピオス」の「夢治療」に連なって、さらに現代の心理学にまで連なっていると言えるのだが、ただ面白いのは「夢」には「正夢」と「凶夢」の二種類があることがここですでに歌われていること。アガメムノンに遣わされた夢は「騙しの夢」であり「凶夢」だったのだが、ギリシャ人は「デルポイの神託」についても言えることなのだが、人間による「神意の解釈」の重要性を意識していて、この解釈への洞察が問題にされる。しかし、アガメムノンはその解釈を怠り、「夢」に騙されて戦闘準備に入るが、ここでギリシャ軍の士気を試そうと「帰国の提案」をしてくる。もうトロイに来て十年目になって嫌気がさしていたギリシャの兵士たちはこれを聞いて躍り上がり、ただちに帰国準備と大混乱になってしまう。
 これを見ていた
オデュッセウスは、アガメムノンから総大将の印の杖を借り受けて兵士達の間を叱りつけては駆け回り騒ぎを鎮めていく。この折り、一兵卒である「テルシテス(ホメロスの叙事詩で神や英雄ではない「一兵卒」が名前まで挙げられて場面を作るというのはこのテルシテスの場面だけ。このテルシテスはおそらく「兵卒の生の声」を代表させたものなのであろう)」がアガメムノンを嘲る場面がでてくるわけで、もちろん「英雄物語」の中でこうした男は逆に「嘲りの対象」となっていて、ここでもオデュッセウスに殴られて皆の嘲笑の的にされているが、先に指摘したように庶民の立場という観点から見たときには非常に興味深いものがある。
 こうしてオデュッセウスによって騒ぎは収められ、戦闘への準備ということになってここで
「船団のカタログ」という長い場面に入る。ここは完全にギリシャ諸将の名前と出身地、その船団の数という、物語としては全く面白くない場面だが、歴史的観点から見るとそれがそのまま事実だと単純に信じるわけにはいかないものの、ある意味で当時の社会の勢力関係の手掛かりが見えてその点では実に興味深いものとなる。またギリシャ人にとっては「叙事詩として吟唱」されている場合にはおもしろく聞けたのであろう。そしてこれが叙事詩というものの本来であったのだろう。

第三巻。
 先に紹介したヘレネの元夫であるメネラオスとトロイのパリスの一騎打ちの場面が歌われる。これに先立ちヘレネがトロイ勢の前に現れてその美人振りが驚嘆されたり、そのヘレネが門の上に立ってギリシャ勢を見やりその紹介をしていく場面がある。またメネラオスにやられそうになったパリスが、女神アフロディテに助けられて城内に戻り、外ではみんなが命を懸けて戦っているのにヘレネをベッドに誘ってよろしくやっているなどという怪しからぬ男の姿を見せてくる。

第四巻。
 パリスが女神アフロディテに助けられて城内に逃げ込んでしまった後だが、主神ゼウスがトロイ方に加勢していると見えたために、ギリシャ方を贔屓しているゼウスの妻ヘラは怒って、再び二人はケンカ状態になってしまう。ゼウスはアキレウスの母である女神テティスに頼まれて、アガメムノンに侮辱されて戦陣を引いた「アキレウスの誉れ」を回復させるために一時的にギリシャ方を不利にしようとしているわけであった。しかし、テティスの依頼でギリシャ方を敗勢に追い込んでいるなどということが妻のヘラにバレては、また紛争の種なので気付かれないようにしているわけで、したがって「トロイ贔屓」と映ってしまうわけであった。
 地上での場面はトロイ方の戦士が盟約を破って
メネラオスに矢を射かけてしまう場面が描かれる。これはギリシャ方を有利に運ばせるための女神アテネの差し金であった。こんな具合に神々はこの戦争に深入りしてきてしょっちゅう姿を見せることになってくる。

第五巻。
 この巻はティリンスの城主ディオメデスの奮戦が描かれる巻となる。ディオメデスは女神アフロディテを傷つけて追い払うばかりか、戦闘と殺戮を楽しんでいる戦争の神アレスに対しても、もちろん女神アテネの助けがあってのことだが、立ち向かって手傷を負わせて天に追っ払うなどという凄まじいことをやってのけている。この場面は、我々としては、古代ギリシャ人にとって「神」とは一体何だったのだろうと思わせる場面となる。一方ゼウスはそうした敵味方なく殺戮だけを好むアレスをこっぴどくののしっており、神にしろ英雄にしろ「ただ殺戮に強ければいい」というものではなかったことを脇から証している。

第六巻。
 メネラオスに矢を射かけてギリシャ方を怒らせたことからトロイ方は押され、総大将ヘクトルは予言者ヘレノスの進言を受けて一度城内に戻り「女神アテネへの祈願」をしていく。もちろんアテネが「都市の守護神」という性格を持ち「勝利の女神」を脇に携えているからである。
 他方、戦場にあっては、ディオメデスとトロイの英雄グラウコスの対峙が描かれる。二人が名乗りを上げたところで「両家は父の代からの行き来と友誼」があったことが確認され、二人の友誼の締結としての武具の交換という場面となる。こうした「客人との友誼」というのは、この時代の英雄たちの習慣であったようで、そのため「領主の守り神」であるゼウスがまた「客人の守り神」とされていた。
 さらに、この六歌が有名なのは、ここでトロイの大将
ヘクトルとその幼子を抱いた妻アンドロマケとの夫婦愛に満ちた「別れの場面」が描かれてくることにある。人情と責任感に厚いヘクトルの性格と当時の夫婦の間柄が描かれて有名な場面となる。

第七巻。
 ここで事態を解決しようとヘクトルの提唱によるギリシャ方の代表(くじ引きでアイアスとなるが、アイアスはアキレウスに次ぐ豪の者とされているので、妥当な人選となる)との一騎打ちの場面が描かれていく。長い戦いが繰り返され、夜になってしまい引き分けに終わり、二人は共に相手を讃えて「武具の交換」をして別れていく。一時休戦となって両軍は戦死者の収容と埋葬とをしていく。ギリシャ方はさらに船陣の回りに防御壁を築き、掘りを巡らしていく。

第八巻。
 ここでゼウスは神々が戦闘に介在することを禁じてくる。そして両軍の運勢を計りにかけて「トロイ方の優勢」を確定させる。こうしてヘクトルの凄まじい働きによってギリシャ方は押され、船の防御壁にまで追いつめられていく。ギリシャ方の贔屓の神女神ヘラとアテネはこっそりギリシャ方を助けに行こうとしたところをゼウスに見つかり、こっぴどく叱られたりしている。
 この場面での
「神が運勢を計りにかける」という場面は後に「アキレウスとヘクトルの死の運命の計り」と同様、「神と運命」との関係を考える上で一つの示唆を与えている。ギリシャでは「運命」と「神の所業」とは別と考えられていると言える。したがって、どんなに神が頑張ったところで「人の死の運命」を変えることはできないのであった。こうして、ではギリシャ人にとって「神」とはどんな存在なのかが改めて問題となるわけである。

第九巻。
 敗勢にすっかり意気消沈したアガメムノンは、帰国という弱音を吐いてディオメデスに叱責などされていく。老将ネストルは、アガメムノンにアキレウスに対する非を説いて詫びを入れるよう助言していく。アガメムノンもその言に従い、詫びの言葉とその償いの贈り物の約束を持たせてオデュッセウスたちに出向いてもらうが、アキレウスに拒絶されてしまう。この場面は当時の将軍達の関係が伺える場面である。

第十巻。
 すっかり心が弱くなっているアガメムノンは諸将と話し合い、敵の様子を知りたいとオデュッセウスとディオメデスに敵情偵察を依頼する。一方、トロイのヘクトルの方も敵情偵察ということで互いに間者を派遣するような格好になる。その二組は途中でばったり出会ってしまい、トロイ方の間者は捕らえられて殺されてしまう。さらにオデュッセウスたちは先に進んでトロイに援軍としてやってきたトラキアの王レソスを殺していく。
 この場面はいわば「番外編」みたいな感じで大筋に影響する話しではない。ただこの「レソス」の物語についてはエウリピデスの偽作『レソス』という悲劇がある。

第十一巻。
 気を取り直したアガメムノンは奮戦し一時はトロイ勢を押し返すが、トロイの反撃にあって傷つき、さらにディオメデスやオデュッセウスも傷ついていく。さらに医者であったマカオンまでが傷ついて、老将ネストルはこのマカオンを戦車に乗せて帰陣していく。それを遠くから見ていたアキレウスは、様子を探りに親友パトロクロスをネストルのもとに走らせる。ここでネストルはパトロクロスに自分の若き頃の手柄話を聞かせる。このネストルの手柄話は延々と長たらしくて読んでいると辟易するが、吟唱として歌われている分には「一つの武勇談」として聞けたのであろう。叙事詩というのは本来そうした性格を持つ。

第十二巻。
 ギリシャ勢を追いつめ掘り割りにまで迫ったトロイ勢は防御壁への攻撃へと移る。この時予兆があってこの攻撃は成功しないと判断されたが、それでもヘクトルはあきらめず攻撃を続け、ギリシャ方の勇将アイアスの必至の防御をも押しつぶしてついに防御壁を破って侵入に成功する。この「成功しないとの予兆」は、結局パトロクロスの戦陣復帰によって実現する。

第十三巻。
 この巻では、先ず神ポセイドンがゼウスの隙をついて戦場に現れギリシャ方を応援し激励していく。これに力を得た劣勢のギリシャ方が戦陣を立て直してトロイ勢に立ち向かっていこうとし、負けじとトロイ勢も攻め立てていくといった情景が歌われる。そういう場面なので両軍の英雄達が多く描かれてくる。最後にヘクトルとアイアスが再び相対峙してぶつからんというところでこの巻は終わる。

第十四巻。
 十三巻の続きで、両軍がぶつかっていったのだが、やはりヘクトルに率いられたトロイ勢の方が優勢となる。再び弱気になったアガメムノンは再度撤退を提唱するが、オデュッセウスやディオメデスになじられてしまう。冒頭からそうであったが、どうもアガメムノンの総大将としてのうつわが問題になるような場面である。
 ギリシャ贔屓の女神ヘラは、これでは困るというわけで一計を案じ、敵方の女神ではあるが「愛と美」を司るアフロディテに言い寄ってその
「愛欲の帯」を借り受け、また「眠りの神」も説得した上でゼウスのもとに行く。そして愛欲にふけらせた上でゼウスを眠らせてしまう。こうしてゼウスの目がなくなったところでギリシャ方の神は戦場に自由に行けるようになり、神ポセイドンは再びギリシャ方に味方しトロイ勢に立ち向かい押し返していく。

第十五巻。
 目を覚ましたゼウスは、トロイ勢が押されているのを見てヘラの謀略に気付き激怒する。そして使いの女神「虹のイリス」を遣わして戦場にいるポセイドンをひきあげさせ、逆にアポロンにはヘクトルの援軍に行かせる。こうして力を得たトロイ勢はギリシャ方を攻め立て、アイアスの懸命の防御にも関わらず遂に船縁までおいこまれ船に火がかけられそうになる。
 この巻はゼウスが激怒して神々に当たり散らしていく時の
「ゼウスはじめ神々の有様」が非常に興味深く、ホメロスに於ける「神のあり方」がよく見られる場面となる。

第十六巻。
 このギリシャ方の大苦戦を遠く見ていたアキレウスの陣営にあったパトロクロスは、援軍にはせ参じようとする。そして、渋るアキレウスを何とか説得してその武具を借り受け、手勢を引き連れ戦場に向かう。パトロクロスの奮戦によりトロイ勢は後退していくが、トロイの英雄サルペドンまで討ち取られ、その死骸を巡って両軍の激しい戦いが行われる。
 しかし深追いしすぎたパトロクロスは、アポロンによって力を奪われ、トロイ勢の槍を受けて傷つき、
ヘクトルにとどめを刺されてしまう。この巻は「パトロクロスの巻」といった性格のもの。

第十七巻。
 パトロクロスの死骸を巡っての戦闘となり、ギリシャ方はメネラオスが奮戦して守ろうとするが、ついにアキレウスの武具はヘクトルに奪われてしまう。それでも遺体の方は女神アテネの助けもあってメネラオス、アイアスなどの働きによりついに守り抜く。

第十八巻。
 パトロクロスの死を知らされたアキレウスは激しく嘆く。そうしたアキレウスのもとに母テティスが現れなぐさめるが、アキレウスの嘆きは止まらない。そして、ついにアキレウスは戦場に戻る決意をしていく。それを聞いてテティスは、もしヘクトルを討つならば、それに続いてアキレウスも死ななければならない運命が待っている、と涙を流す。しかしアキレウスはその運命は甘んじて受けるつもりであると言い放つ。
 そうした我が子のため母テティスは、神ヘパイストスのもとを訪れ「武具」の調達を頼み、へパイストスは見事な武具を作り上げていく。このヘパイストスの武具の描写は絵的に素晴らしく、これも詩として歌われた時には素晴らしいものとなる。ホメロスというのは「物語」としてよりもこうした「詩」という性格が強くあることは先にも指摘しておいた。

第十九巻。
 アキレウスは母テティスから武具を受け取りいよいよ出陣となる。アガメムノンが訪ねてきてこれまでの無礼を詫びて謝罪の贈り物を手渡し両者は和解する。アキレウスはパトロクロスの死後彼を悼んで絶食していたが、女神アテネが食を与えて元気付けていく。戦場に行こうとするアキレウスにその名馬クサントスが人語を語ってヘクトルを討った後のアキレウスの死を予告する。
 この巻では猛将
アキレウスの「友情の厚さ」がテーマとなっていると言える。死を賭して友の仇を討とうとする姿は、市民全員が戦士であった古代ギリシャの男たちの共感を呼んでいたことは確実で、そうしたこともあってアキレウスは理想的な男と捕らえられていったようである。
 さらにここでの
アキレウスのせりふに「生きるとは長く平穏に生きることではない、たとえ短い人生でも、このように生きたと言える人生を生きることが生きることだ」という意味の言葉があり、これは後に無実の罪を着せられて死んでいく哲学者ソクラテスが自分の人生のあり方を説明する時に引用されて有名となっている。
 また、この馬クサントスの予言というのがどういう性格のものなのか少々気がかりになるが、英雄物語にはこうしたことはよくおきてくることで一つのパターンとも言える。

第二十巻。
 ここに来てゼウスは神々の戦闘への介入を全面的に許可する。ヘラやアテネ、ポセイドンはギリシャ方の陣営に走り、アポロンやアルテミスはトロイ方へと駆け下りていく。しかし、アキレウスがトロイの英雄アイネイアスを討ち取りそうになると、ポセイドンはギリシャ方なのにアイネイアスの英雄振りを惜しんで彼を救い出してしまうとか、ヘクトルとアキレウスが一度は対峙するものの、神アポロンと女神アテネとが双方に付いているため決着がつかなかったり、と厄介なことになってしまう。
 そしてアキレウスは他のトロイ勢へと向かい殺戮を欲しいままにしていく。この場面も
「神と人間」の関係がまるで人間同士のようなのが面白い。

第二十一巻。
 アキレウスの鬼神のごとき殺戮が歌われていき、スカマンドロス河はトロイ勢の死骸で埋まり、怒った河神は激流を送りアキレウスに襲いかかる。ヘラはそれを見てヘパイストスを送り込み「火」をもって対抗させ河を干上がらせてアキレウスを助けていく。神々同士の戦いも同時に行われているが、形成不利となったトロイ勢のためにアポロンはアキレウスを騙し、トロイ勢を城中へと待避させていく。

第二十二巻。
 アキレウスはアポロンの欺きに気付いて城へと向かう。一方ヘクトルはトロイ勢を全員城の中へ待避させた後、一人城外にとどまりアキレウスを迎えうとうとする。城中からは父プリアモスや母ヘカベの沈痛な懇願がなされるが、ヘクトルは責任感から城中への待避を拒否していく。
 アキレウスはヘクトルを見つけ獅子のごとくに襲いかかっていき、怖れて後退するヘクトルを追って城を三回も巡る。そして相対して戦いとなるが、それ以前ゼウスは二人の命運を計りにかけ、ヘクトルの命運が下がっていた。つまりこの戦いはヘクトルの負けと運命は定めていた。従ってここでアポロンは退かざるを得ず、アキレウスは女神アテネの助力によって
ヘクトルを討ち取っていく。アキレウスはヘクトルの死骸を戦車にくくりつけ戦場を引きずり回していく。トロイの城の中は、ヘクトルの父プリアモスや母ヘカベ、そして妻アンドロマケなどの悲痛な嘆きに包まれる。
 この巻ではトロイの総大将ヘクトルの責任感、怖れをしる人間、家族や部下を思いやる心、などの人間的な人となりやまたその親族との強いつながりなどが語られ、武将としての一つの典型的な理想像がある。

第二十三巻。
 他方、パトロクロスの遺体はアキレウスの陣営に運ばれ、アキレウスや部下の将兵は遺体を囲んで死を悼む。しかしその夜アキレウスの枕元にパトロクロスの亡霊が現れ、冥界に赴くための火葬を催促していく。アキレウスはその言葉に従い、直ちに火葬を執り行い、パトロクロスの霊を慰めるべくたくさんの賞品を用意して「競技会」を催す。それぞれの英雄が勝利を得て賞品を得ていくが、最後のやり投げの部門ではアキレウスは戦わずしてアガメムノンの勝利を宣言して彼との諍いに終止符が打たれたことを暗に宣言する。

第二十四巻。
 しかしアキレウスはヘクトルに対する怒りを解こうとはしなかった。そして毎日彼の死骸を戦車にくくりつけて戦場を引きずり回し、これにはさすがに神々も顔を背け、ゼウスはテティスを通じてアキレウスにヘクトルの遺体の返還を命じ、神アポロンはヘクトルの死骸が傷つかないように守っていく。
 ヘクトルの父プリアモスは夜になって神ヘルメスに導かれてアキレウスの陣屋を訪れ、ヘクトルの死骸を返還してもらう。そしてトロイの城中では皆の嘆きの中にヘクトルの葬儀が執り行われていく。

▲ページのトップへ