3.ギリシャ神話、その主題と旋律 - 14. テバイを巡る三つの伝説 | 小澤 克彦 岐阜大学・名誉教授

ギリシャ神話、その主題と旋律
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INDEX
1. ギリシャ神話とは
2. ギリシャ神話の日本語資料
3. 宇宙ないし神々の生成の物語
4. クロノスの一族
5. プロメテウスの神話
6. オリュンポスの神々の物語
7. 神々の「恋」と「異性関係」
8. 闇の神々
9. 神話を彩る妖精たち
10. 英雄ペルセウス伝説
11. 豪傑ヘラクレス伝説
12. アルゴー船伝説
13. テセウス伝説と迷宮の神話
14. テバイを巡る三つの伝説
15. 英雄アムピアラオス伝説
16. トロイ戦争伝説の大筋
17. トロイ戦争の発端と前夜
18. トロイ戦争(ホメロスの『イリアス』全24巻の内容)
19. トロイの落城にまつわる諸伝承
20. トロイからの帰還物語
21. 星座のギリシャ神話、
黄道12宮の星座物語

14.

テバイを巡る三つの伝説

「カドモスのテバイ建国伝説」 「オイディプス伝説とアンティゴネ伝説」 「テバイ戦争物語」


 ギリシャの英雄伝承はペロポネソス半島の「アルゴス」を巡るものと、ギリシャ本土中部の「テバイ」を巡るものとに大別できる。この二つの都市が古い時代の二大勢力であったからである。先に見た「ペルセウスの伝承」や「ヘラクレスの伝承」はアルゴス系のものであった。もう一つのテバイ伝承は、「テバイ建国、カドモスの伝説」「オイディプス王伝説、その娘アンティゴネ伝説」、およびその死後の騒動である「テバイ戦争物語」とに代表される。
 テバイ戦争とは、ペロポネソス半島にあった「アルゴス」が中部ギリシャのテバイに攻めて一度は敗北するが、後にその後裔たち(エピゴノイとよばれる)による復讐戦においてテバイを滅ぼすというものになり、「アルゴス」と「テバイ」という当時の二大勢力の衝突と最終的な「アルゴス」の勝利が描かれる。アルゴスの勝利の後の時代が「ミケーネ時代」となる。従って、ミケーネが小アジアを攻める「トロイ戦争」の主人公たちの
「父親の世代」が「テバイ攻め」の時代とされている。こんな具合に、英雄伝説の背後には歴史の流れがほの見えている。

カドモスによるテバイ建国の伝説
 テバイ建国は「カドモスの伝説」となるが、これに先立つ話しがあって、それは「エウロペの物語」となる。
1. 現在の中東レバノンあたりとなる古代フェニキア地方を支配していたアゲノルという王の娘に「エウロペ」という娘がいた。
2. そのエウロペに対して神ゼウスが邪な心を抱き、妻である女神ヘラの目をくらまそうと「牡牛」の姿となってエウロペに近づき、エウロペがその背中に乗った時に海に飛び込み、クレタ島へと連れていってそこでエウロペから子どもを生ませた。
3. その時以来、フェニキア方面が「アシア」と呼ばれていたのに対して、その海岸線からクレタ方面、つまり西地方を「エウロペの地、つまりヨーロッパ」と呼ぶようになった。
4. 「カドモス」の物語はここからで、カドモスはエウロペの兄であり、エウロペの父であるアゲノルによって行方不明の妹の探索を命じられた。
5. カドモスは、アポロンの神託を仰ぎにデルポイへとやってきたが、神アポロンはカドモスに対してエウロペのことは忘れろといい、それよりここをでて一匹の牝牛に出会ったら、それを道案内としてその牛が横になったところに町を作れ、と命令した。
6. カドモスはデルポイを後にして歩いていくと一頭の牝牛が歩いていくのに出会い、その牛についていくと、その牛は後にテバイと呼ばれることになる地に来て横になった。
7. そこでカドモスはその牛を女神アテネに捧げようと従者に命じて泉に水をとりに行かせた。ところがその泉は「戦の神アレス」の泉で一匹のがそれを守っていた。
8. 従者達がその龍に殺されたと知って、カドモスはその龍と戦いそれを退治する。
9. 女神アテネの言葉があってその龍の歯を抜き取り、それを畑にまいたところそこから「武装した戦士たち」がはえ出てきたのでカドモスが石を投げつけた所、彼等は互いに殺し合いとなり結局五人だけが残った。この五人がテバイ王家の長老となる。
10. カドモスは神アレスの龍を殺したということで「アレスに対する罪」があるとなり、8年間の間奉仕活動をして、その後女神アテネによって王国を与えられる。
11. さらに、ゼウスによって女神アフロディテとアレスの間の娘「ハルモニア」を妻としてもらいうけた。
12. カドモスは年老いてテバイを去る。そしてエンケレイア人のもとにやってくるが、そこはイリュリア人に侵略されており、カドモスは神託に基づいて彼等と戦い、勝利してイリュリア(バルカン半島西部でイタリアとはアドリア海を挟んで対面した地方、現在のクロアチア辺り)を支配することになる。
13. その後、彼は妻ハルモニア共々「龍」に変身し、ゼウスによって「エリュシオンの野(これは地下界にある天国のような所で、生前の行いが正しく優れた人生を送ったものだけが送られる地、とされていた所)」に送られたとなる。

テバイの王「オイディプス」の伝承
 テバイの王「オイディプス」の伝説は有名となっているが、ここではソポクレスの悲劇『オイディプス王』の梗概を紹介しておく。
背景の伝承
 テバイの王ライオスは、自分の子によって殺され、さらにその子は自分の母と結婚し子を為すに至るとの神託をうけ、それを恐れて生れた子供の足をピンで刺して止め、山中に捨てる。時がたち、テバイの郊外に妖怪スフィンクスが出没し、その解決のためライオスはデルフィの神託を求めにいくが、その途上で旅の男と争いになり、誤って殺されてしまう。一方、テバイはスフィンクスのせいで困窮するが、一人の「知の英雄」が通り掛かり、スフィンクスの謎を解いてテバイを救う。王を失っていたテバイはその英雄に乞うて「王家」に入ってもらい、王妃と結婚し新たな王になってもらうこととする。こうして彼は四人の子を持つに至る。
 この英雄こそが、他ならない、山中に捨てられたはずの
ライオスの子であって、彼は救われコリントスの地にあって子供のなかった王によって育てられていたのであった。その子はオイディプスと名付けられた。そして彼はある時ひょんなことで「お前は実の父を殺し、実の母と寝床を共にし子を為す」という神託をうけ、それを避けるために放浪していたのである。そしてその途上、彼は旅の老人の一団と出会い、争いの中でこの老人を殺してしまっていた。
 こうして、実はライオスとオイディプスに下された神託は実現してしまったのであった。ここまではギリシャ神話・英雄伝説の語るところである。
 そして今、テバイの町は疫病の蔓延で苦しんでいる、と、ソポクレスはこの自分の『悲劇』の幕を開けていく。

ソポクレスの悲劇『オイディプス王』の運び
1. 疫病の蔓延に苦しむ市民の代表たる長老達の願いとそれに応えるオイディプス。
2. すでにデルポイに神託を伺いに王妃の弟クレオンを派遣してあること。
3. ライオス殺害の犯人を追放か死刑にしなければならないこと。その決意の表明。
4. 犯人への呪いと、犯人を知る者への告示の命。
5. 有名な「盲目の予言者」テイレシアスを呼びにやっていること。
6. すべてを知るテイレシアスは言を左右し、ついにオイディプスと口論になる。
7. 口論の中で、テイレシアスはオイディプスが犯人たることを言明。
8. オイディプス、その言は自分を追い落とそうとするクレオンの差し金と誤解する。
9. オイディプスと帰ってきたクレオンとの口論。
10. 王妃イオカステが仲裁に入る。
11. イオカステ、予言など当てにならぬことをオイディプスに言うためライオスに下された神託に言及する。すなわち、ライオスは子供によって殺されるはずであったが、盗賊に殺されたこと、子供は山中に捨てられ死んでいるはずのこと、を言う。
12. オイディプス、ライオスが三つ又の道で殺されたという言葉に胸騒ぎを覚え、その状況を詳しく聞き出す。
13. オイディプス、自分がライオスを殺した犯人らしいことを予感する。
14. 現場から逃げ帰った下僕がいることをきき、その者を呼ぶよう命ずる。
15. オイディプス、自分の身の上を語り出す。すなわち、コリントス王の元で育ったこと、ある時、デルポイの神託で父を殺し母と子を為すに至ることを予言され、それをおそれて放浪していたこと、その途中例の三つ又の道で老人を争いで殺していることなどを話していく。
16. ともあれ、逃げ帰った下僕を待つこととする。その話で、犯人は一人とあれば自分が犯人と確認する(ただし、ここでは、自分がライオスの殺害者であることは予感していても、「自分はライオスの子である」とは考えていない。それとこれとは別のこととして考えられるからである)。
17. コリントスからの使者が登場し、コリントス王の死とオイディプスが後を継ぐよう望まれていることを告げる。
18. オイディプス、父の死に「神託の不実」を言うが、一方で「母」とのことを恐れる。
19. 使者はコリントスの両親は本当の親ではないことを告げる。そして、自分自身がオイディプスを、捨てられていたキタイロン山で羊飼いから譲り受けたことを明らかにする。
20. その羊飼いこそ、ライオス殺害現場から逃げ帰ったその下僕であることが告げられる。彼が来れば全てが判明するわけである。
21. 王妃イオカステはすべてを悟り、これ以上の詮索はやめるように叫ぶが、オイディプスはあくまで自分の素性を明らかにするつもりである、と言う。ただし、ここでもオイディプスは自分がライオスの子であるとは思っていない。卑しい奴隷の子かなにかだと思っている(何故なら、ライオスの子、ライオス殺し、捨て子、はそれぞれ別であっておかしくなく、それを同一と言っているのは神託だけである。オイディプスが自分をライオス殺しで捨て子とまで考えたとしても、それがライオスの子とする証拠は「神託」以外まだなにもない。ただ捨てた当人であるイオカステは「捨て子はライオスの子」と状況からして分かってしまったわけで、彼女は神託を信じないわけにはいかなくなってしまったわけである)。
22. イオカステは絶望して、奥へと消えていく。
23. 老人が連れてこられ、かの羊飼いにして逃げ帰ってきた下僕であることが告げられる。彼はシラをきろうとするが、オイディプスに攻め立てられついに真実を明らかにする。
24. かくして、オイディプスはすべてを知ることとなり、狂気のように城の中に駆け込んでいく。
25. 召使が登場し、城中でのことを報告する。すなわち、イオカステがすでに首を吊って死んでいたこと、狂気のようになっていたオイディプスがそれを発見、床に下ろすと、イオカステの衣の止め金を抜き取り、我とわが両目を何度も突き刺し雨のように血飛沫を浴びたことなどを告げる。
26. オイディプスが現れ、自らの行為を語り、自ら追放をクレオンにたのむ。このあたりのセリフは凄絶である。
27. クレオン、オイディプスの二人の娘を連れてきてやり、後の処置をとるべく、オイディプス達をつれて退場する。

悲劇作家ソポクレスは、この「オイディプス」の物語をさらに『コロノスのオイディプス』『アンティゴネ』という作品でも描いている。
『コロノスのオイディプス』
1. オイディプスのその後の物語で、忌まわしい人物として石もて追われながらさまようオイディプスと、父を支えて健気にその運命を共にしている娘アンティゴネがアテナイへとさまよいやってくる。
2. オイディプスの持つ汚れをおそれて立ち退きを迫るアテナイの長老。
3. この場所が「エウメニデスの神域」であることが分かったオイディプスは、ここが自分に定められた死の場所であることを主張する。
4. アンティゴネの妹イスメネが、テバイの危機と、オイディプスを拉致しようとするテバイの王エテオクレスとクレオンの企みを知らせに駆け付けてくる。
5. テバイの危機とは、オイディプスの二人の息子エテオクレスとポリュネイケスが王位争いから戦争になるとの危機であり、オイディプスの拉致とは、神託が「オイディプスのあるところに幸いがある」と告げたからであった。
6. イスメネを追ってきたテバイのクレオンと、オイディプス達を保護しに駆け付けたアテナイ王テセウスとの争い。
7. オイディプスのもう一人の息子ポリュネイケスも、オイディプスに助力を求めてやってくる。
8. 自分勝手な息子達にオイディプスの呪いは厳しい。死を覚悟して立ち去らねばならぬポリュネイケス。それを慰め、兄を諭すアンティゴネ。
9. やがて雷鳴(つまり、ゼウスの約束を意味する。オイディプスはその埋葬の地に繁栄をもたらすという定めを与えられていた)とともに、オイディプスはアテナイ王テセウスを伴い死の場所へと赴いていく。

テバイ戦争(アイスキュロスの『テバイ攻めの七将』、エウリピデスの『ポイニッサイ』)
 オイディプスの悲劇の運命に対して、アンティゴネやイスメネなどの娘たちはそれを精一杯助けようとしたのに対して、息子たちは冷淡でありむしろ「王位争い」に明け暮れる。結局息子たちはオイディプスの呪いを受け、二人とも滅亡していく次第が「テバイ戦争物語」となる。これはアイスキュロスとエウリピデスの悲劇に描かれて有名となっている。細部でかなりの違いがあるが、筋を構築してみる。
1. 呪われた二人の息子、エテオクレスとポリュネイケスは、「王位」に関して二人が一年おきに交替していくという約束をする。
2. しかし、エテオクレスが王位について一年たっても彼はその王位をポリュネイケスに渡さなかった。
3. そしてポリュネイケスはテバイから追放されてしまい、彼は「首飾りと女物の上着」とを携えてアルゴスへと流れていった。
4. この「首飾りと女物の上着」というのは建国の王カドモスに由来し、彼が神アレスの娘ハルモニアと結婚した時そのお祝いとして神ゼウスないしヘパイストスが与えたものであった。
5. ポリュネイケスがアルゴスのアドラストスのもとに来たとき、偶然にもテュデウス(トロイ攻めのディオメデスの父としても有名)という英雄も流れてこのアルゴスへとやってきた。
6. 二人は王宮のところで鉢合わせとなってしまい争いとなってしまう。
7. その騒ぎを聞きつけてアルゴスの王アドラストスが出ていって見ると、二人の屈強な男が戦っていたわけだが、アドラストスは二人の「楯」をみて昔自分に下された予言を思い出す。それは「娘達を猪と獅子とに娶せるべし」という予言であった。アドラストスはこの謎のような予言の意味を今分かった。
8. 二人の楯には一方には「猪」が、一方には「獅子」が描かれていたからである。そこでアドラストスは両人を分けて、そして二人を自分の娘達の婿にし、そして二人のそれぞれの祖国を取り戻してやると約束する。
9. こうして「テバイ攻め」の準備が為されていく。しかし召集されたアルゴス地方の英雄の一人であったアムピアラオスは予言に長けた英雄であり、この戦いは「負け」で王アドラストス以外は皆死ぬ運命にあることを予知して一人反対する。
10. しかし、アムピアラオスは、ポリュネイケスの差し出した「首飾りと女ものの着物」に買収された妻の裏切りにあって出征せざるを得なくなる。こうして「七人の英雄」に率いられてテバイ遠征軍が結成されていく。
11. アルゴスの軍勢がテバイに近い「キタイロン」に到着した折り、テバイのエテオクレスに、約束通り王位をポリュネイケスに譲り渡すよう交渉に出向くということで「テュデウス」がその使者に立つ。
12. しかしエテオクレスは耳を貸さず、そこでテュデウスはテバイ人の力を試そうと一騎打ちをテバイ人に持ちかけ、応戦した者すべてをうちまかす。そこでテバイ人は50人の武装した兵士を待ち伏せさせテュデウスを襲わせたが、ただ一人を除いて全員がテュデウスに討ち取られてしまう。
13. かくして戦いとなり「七つの門」での攻防となっていき、カパネウスが活躍して城壁によじ登ろうとしたときゼウスは彼を雷で打ち落としてしまう。
14. これを見てアルゴス勢は神が敵の味方についていることを知って退くが、両軍の協議によってポリュネイケスとエテオクレスとに一騎打ちをさせて決着をつけさせようとなる。
15. ところが結局相討ちとなってしまい決着がつかず、こうして再び戦闘になって、この結果アルゴス勢はテバイ軍の前に続々と討たれてしまうことになった。
16. アムピアラオスもテバイに来てしまった以上「死」を免れることはできない運命であった。退却の途中、ゼウスが雷を落として大地を引き裂き、馬もろともアムピアラオスを大地の裂け目に飲み込ませてしまった。
17. もっとも、ゼウスはアムピアラオスを精霊としていき、ここはアムピアラオスによる予言の地となる(アテナイの北東にある神託の地「コロポン」となるが、ここは夢占いによる病気治療の地として有名となる)。他方、ただ一人アドラストスだけがその名馬によって助かることができた。
18. 一方テバイではエテオクレスとポリュネイケスの二人ともが死んでしまったために、クレオンが王位に就き、アルゴス勢の埋葬は許可しないという命令を出してアルゴスの将兵を野ざらしにしてしまう。
19. しかしオイディプスの娘アンティゴネはポリュネイケスの遺体を埋葬してしまい、クレオンによって生きながら埋められてしまう。この次第がソポクレスの『アンティゴネ』の舞台となる。
20. そして十年の年月が流れ、このテバイ攻めに加わった武将の子ども達が成人して「復讐戦」へとなっていく。それを率いたのがアムピアラオスの子どもとなり、物語は「アムピアラオス伝説」につながっていく。

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