3.ギリシャ神話、その主題と旋律 - 13. テセウス伝説と迷宮の神話 | 小澤 克彦 岐阜大学・名誉教授

ギリシャ神話、その主題と旋律
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INDEX
1. ギリシャ神話とは
2. ギリシャ神話の日本語資料
3. 宇宙ないし神々の生成の物語
4. クロノスの一族
5. プロメテウスの神話
6. オリュンポスの神々の物語
7. 神々の「恋」と「異性関係」
8. 闇の神々
9. 神話を彩る妖精たち
10. 英雄ペルセウス伝説
11. 豪傑ヘラクレス伝説
12. アルゴー船伝説
13. テセウス伝説と迷宮の神話
14. テバイを巡る三つの伝説
15. 英雄アムピアラオス伝説
16. トロイ戦争伝説の大筋
17. トロイ戦争の発端と前夜
18. トロイ戦争(ホメロスの『イリアス』全24巻の内容)
19. トロイの落城にまつわる諸伝承
20. トロイからの帰還物語
21. 星座のギリシャ神話、
黄道12宮の星座物語

13.

テセウス伝説と迷宮の神話

「クレタ島の迷宮の神話とミノタウロス退治」 「その他の物語」


 テセウス伝説は、「アルゴス」や「テバイ」に遅れて台頭した「アテナイ」の英雄伝承である。アテナイは初期の時代はおそらくクレタ島のミノア文明の支配下に置かれていたと考えられる。そこからの脱却が「クレタ島の迷宮でのミノタウロス退治伝説」となるが、時代設定的には「アルゴー船伝説」に登場する「メデイア」や「ヘラクレス」が登場するのでその時代に設定しておく。この時代は「トロイ戦争伝説」に先立つ時代となる。

【アイゲウスの物語】
伝承はテセウスの父となるアイゲウスから見なければならない。
1. アイゲウスがアテナイの王となって妻をめとったが子どもができない。そこでアイゲウスは神託を乞いにデルポイに赴き、子どもができる方法の神託は得たが訳が分からないまま帰途につく。
2. そしてその帰り道トロイゼンに寄った。(後で見るように、テセウス伝説はこのトロイゼンからとなる。アテナイとは内湾を隔てた対岸にあり歴史時代にもアテナイとは非常に関係の深い町であり、これが逆に「トロイゼン発のテセウス伝説」を作らせたのかもしれない)。
3. トロイゼンでアイゲウスは自分が受けてきた訳の分からない神託の話しする。その神託とは、「酒袋の突き出た口をアテナイに戻るまで解いてはならない」というものだった。これはペニスを意味しており、子宝は授けてやったからアテナイまでムダにするな、ということだった。トロイゼンの王はその意味が分かったが黙っていた。
4. トロイゼンの王はアテナイとの強いつながりを求めてか、自分の娘をアイゲウスと一緒に寝かせて交わらせてしまった。
5. アイゲウスは事態を悟って帰路に就くとき、その娘に、もし子どもができ男の子だったらそれが誰の子どもであるかは秘密のまま育て、成長したらこれを取り出させて旅に出すように、といいおいて大岩の下にサンダルと刀を埋め隠しておいた。
6. その後のこと、アテナイでパンアテナイア祭が執り行われた時、クレタ島からミノス王の息子が参加してきて優勝してしまった。
7. そこでアイゲウスは、そのミノスの子にマラトンに出没して被害を与えている牡牛の退治に向かわせたところ、彼は逆に牡牛に倒されてしまった。
8. 怒ったミノス王がアテナイを攻めようと、先ずアイゲウスの兄弟で、不死身のニソスが支配するメガラを攻める。
9. 攻めてきたミノス王を見てメガラのニソスの娘が恋してしまう。そしてミノスの策略によって父ニソスの不死身の秘密である頭の毛に一本だけある「紫の毛」を抜いてしまい、かくしてメガラは攻略されてしまう。
10. しかしミノス王は、逆にこの娘を「父を裏切った娘」ということで、船に脚をくくりつけて溺死させてしまう。
11. こうしてミノスはメガラを根拠地にしてアテナイに迫ったが、戦いは膠着状態になってしまう。
12. ミノス王は、神ゼウスに祈り疫病を流行らせ、やむなくアテナイは降伏し、ミノスの条件を何でものまなければならなくなってしまった。
13. そのミノスの出した条件というのが「迷宮」に住まわせている「ミノタウロス」の餌食として毎年七人の少年・少女を差し出すというものだった。
14. ミノタウロスとは、ミノス王が神ポセイドンへの約束を果たさなかった罰として、神が牛を送りつけてミノスの妻がその牛に子とするようにし向け、彼女は名工ダイダロスが作った張りぼての牝牛の中に身を潜めて牡牛と交わり、その結果「身体は人間、頭は牛」という怪物が生まれることになりこれがミノタウロス(意味は「ミノスの牛」となる)と名付けられた。そして、ダイダロスが作った迷宮に閉じこめておいたものだった。

【テセウス伝説】
こうして話しはテセウスのところまでくることになる。
1. トロイゼンの王の娘から生まれていた彼は成長し、かつてアイゲウスがサンダルと刀をその下に隠した例の大岩を押しのけてそのサンダルと刀を手にして、真実の身の上を知ってアテナイへと向かう。
2. 先ず、旅人を鉄棒で殴りつけ殺していた男を退治しその棒を奪い取る。
3. 第二に、松の木を折り曲げて旅人に持たせて、力のない旅人を投げ飛ばしていた男を逆にテセウスは巨大な松の木を曲げて男に持たせて吹き飛ばして退治する。
4. 第三に、怪物から生まれた牝の猪を退治する。
5. 第四に、通行人に自分の足を洗わせ、その途中で水中にけ飛ばして巨大な亀の餌食にしていた男の足をひっつかんで、水中に放り投げて亀の餌食にして退治。
6. 第五に、通行人に相撲を挑んでは相手を殺していた男を逆に頭上高く持ち上げて大地に叩き付けて退治する。
7. 第六は、二つのベッドを並べておいて旅人をそれに寝かせ、小さい人は大きいベッドに寝かせて叩いて引き延ばし、大きい人は小さいベッドに寝かせてはみでた部分を鋸で切り落としていた男を退治する。
8. テセウスがアテナイに来た時、コリントスで夫のイアソンに復讐を果たしたメデイアがアテナイに来てアイゲウスの妻に収まっていた(アルゴー船伝説の最後の部分36を参照)。
9. メデイアは賢い女で、テセウスを素早く見破り、このままだと自分の子「メドス」の立場(このメドスの存在はアルゴー船伝説にある)が危ういと察知してメデイアは一計を案じてテセウスを亡き者にしようとする。
10. メデイアはテセウスを、あのクレタのミノスの息子までも倒していたマラトンの暴れ牛の退治に行かせるが、テセウスはその牛を退治して戻ってくる。
11. メデイアは毒入りの飲み物を調合してアイゲウスに渡して、これをあの危険な男に飲ませるように、とけしかける。
12. テセウスはその飲み物をアイゲウスから受け取り、そのお返しということで持っていた例の刀を贈り物として差し出す。
13. アイゲウスはそれを見てすべてを悟り、テセウスの手にあった杯をたたき落とし、テセウスを我が子と認知してメデイアを追放する。
14. 「アルゴー船」物語の方では、その後このメデイアの子メドスは英雄となって小アジアを平定して、母の名前をとって「メディア王国」を建設したとなり、メデイアの方は密かに故郷コルキスに戻って、王の座を奪われていた父のために王権を取り戻してやるという話しになっている。
15. 一方テセウスの方は、例のミノタウロスへの七人の少年・少女の餌食の一人となってクレタに渡ることになる。
16. この時船は、喪に服するように真っ黒の帆で出ていく習わしであったが、アイゲウスはもしテセウスが生きて戻れたときには白い帆に変えて戻ってくるように言い置いて出航させる。
17. クレタに来たときミノスの王の娘アリアドネはテセウスを見て恋心を抱き、もし妻としてくれるなら援助しようと持ちかけ、テセウスの方も同意する。
18. そこでアリアドネは迷宮の建造者であったダイダロスの教えに従って彼に糸玉をわたし、テセウスはそれをほぐしながら中に入っていく。そして迷宮のもっとも奥にミノタウロスを発見してこれを退治し、そして糸玉を手繰りながら外に出てきた。
19. そして夜のうちにアリアドネを伴い他の犠牲として連れてこられた少年・少女ともどもクレタを出ていった。
20. そしてナクソス島で一休みしていたとき、神ディオニュソスがアリアドネを見そめて彼女をさらってしまいレムノス島に彼女を連れていってしまった。
21. テセウスは居なくなったアリアドネを探すが見つけられず嘆き悲しみ、アテナイに着いたときも帆を白に張り替えるのを忘れてしまう。
22. アテナイで待っていたアイゲウスは、船が黒い帆のまま入ってくるのを見てテセウスが死んでしまったものと思い絶望し、そこから海に身を投げてしまった。それ以来この海は「アイゲウスの海=アイガイオン=エーゲ海」と呼ばれるようになった。
23. そしてテセウスがアイゲウスの跡を継いでアテナイを支配することになった。

別のテセウス伝説
エウリピデスの悲劇『ヒッポリュトス』の題材
1. テセウスはヘラクレスとともにアマゾンを攻めその女王を奪った。
2. それでアマゾンはアテナイに攻めて来て「アレスの丘」辺りに陣を敷いたが、テセウスはそれを撃退した。さらに、その奪った女王から「ヒッポリュトス」を得た。
3. テセウスはその後、ミノスの娘パイドラ(つまりアリアドネの妹)と結婚することになった。
4. このパイドラは義理の息子ヒッポリュトスに道ならぬ恋をしてしまい、それが露見したところでヒッポリュトスに襲われたとの嘘の証言をして死んでしまう。舞台はあの「トロイゼン」ということになっている。
5. テセウスはヒッポリュトスを呪い、ポセイドンによって破滅させてしまう。

ケンタウロスとの戦いと冥界行き、およびテセウスの最後
1. テセウスの友人ペイリトスがヒッポダメイアと結婚する時、親族であったケンタウロス族も招待されたが酒を飲んで酔い、花嫁を犯そうとしてあばれたのを二人して退治したというもの。オリュンピアのゼウス神殿の西破風、さらにアテナイのパルテノン神殿のメトープにその彫刻があって有名。
2. この「テセウスとペイリトス」の二人は、テセウスは自分の妻としてはスパルタにいた12歳のヘレネを二人して奪い、ペイリトスのためには冥界の女王ペルセポネを妻にせんものと冥界に赴き、しかしハデスに騙されて椅子に座ったところそれから離れることができずさらに大蛇に巻き付かれてしまった。
3. テセウスだけはヘラクレスに助け出されたけれどペイリトスは冥界にとどめ置かれてしまった。
4. テセウスが冥界に出かけた留守中、「カストルとポリュデイケス(後の双子神)」がスパルタ人と共にアテナイを攻めヘレネを奪回していき、カストルたちはアテナイの王としてメネステウスを置き、そしてテセウスが冥界から戻ってきた時テセウスを追い払い、やむなくテセウスはリュコメデスのもとに行ったけれど彼はテセウスを深い穴に落として殺してしまった。

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