3.ギリシャ神話、その主題と旋律 - 11. 豪傑ヘラクレス伝説 | 小澤 克彦 岐阜大学・名誉教授

ギリシャ神話、その主題と旋律
HOME
INDEX
1. ギリシャ神話とは
2. ギリシャ神話の日本語資料
3. 宇宙ないし神々の生成の物語
4. クロノスの一族
5. プロメテウスの神話
6. オリュンポスの神々の物語
7. 神々の「恋」と「異性関係」
8. 闇の神々
9. 神話を彩る妖精たち
10. 英雄ペルセウス伝説
11. 豪傑ヘラクレス伝説
12. アルゴー船伝説
13. テセウス伝説と迷宮の神話
14. テバイを巡る三つの伝説
15. 英雄アムピアラオス伝説
16. トロイ戦争伝説の大筋
17. トロイ戦争の発端と前夜
18. トロイ戦争(ホメロスの『イリアス』全24巻の内容)
19. トロイの落城にまつわる諸伝承
20. トロイからの帰還物語
21. 星座のギリシャ神話、
黄道12宮の星座物語

11.

豪傑ヘラクレス伝説

「12の難行、そのすべて」 「その他の物語」


 ヘラクレスは、前出のペルセウスの子孫であり、そのことが彼の運命を決めてくるという意味でペルセウスとの関係は重要となっている。ヘラクレスの伝説というのは、ギリシャの創世記の先祖の勲の思い出を背景にしていると考えられ、したがって詩人ホメロスの叙事詩にも頻繁に出てくる。また、詩人ヘシオドスの物語にも「12の難行」を含めていろいろ触れられていて、ごく初期からの伝説であったと言える。物語の時代設定は、今指摘したように「ペルセウスの子孫」となっていて、また次に見る「アルゴー船伝説の登場人物」となっている。
 悲劇作家達が12の難行を含んださまざまのヘラクレス伝説に題材をとった多くの悲劇を書いている。悲劇作家の作品のうち、エウリピデスの『ヘラクレス』『ヘラクレスの子供達』『アルケスティス』が現存している。アイスキュロスとソポクレスのものは残念ながら断片しか残っていない。また喜劇の中でも登場し、アリストパネスの『蛙』などが面白い。ヘラクレス伝承は話しが長く、煩雑だが、テーマごとに区切ると以下のようになる。

ヘラクレスが孕まれる次第
1. 例によってゼウスの浮気で、相手はテバイに亡命していたアンピトリュオンという男の妻であった「アルクメネ」となる。ゼウスがとった仕方は、出征中の夫の姿に身を変えて、凱旋したように見せかけてアルクメネのもとにいく、というものであった。
2. アンピトリユオンも戻ってきて、彼も妻のアルクメネを早速にも抱いて、結局アルクメネは「二人の子供」を生んでくることになる。
3. 一人はゼウスの子供、もう一人はアンピトリュオンの子供で、そのゼウスの子供がヘラクレスとなる。

ヘラクレスの誕生
1. ゼウスはヘラクレスが生まれてくる時、彼をミケーネの王にしてやろうと思って「今度生まれてくるペルセウスの子孫が(ヘラクレスはその子孫だったので)ミケーネの王となる」と宣言したが、その意図を察知したヘラが例のごとく嫉妬の炎を燃やし、自分の配下にいる出産の女神エイレイテュイアに命じてアルクメネの出産を遅らせてしまい、まだ七ヶ月であったステネロスという男の子供を先に生ませてしまった。
2. その子供がエウリュステウスといい、彼もペルセウスの子孫であったので、ゼウスの今の宣言に基づいてヘラクレスを出し抜く形でミケーネの王となってしまい、ヘラクレスに様々の難題を与えて苦しませることになる。

赤ん坊のヘラクレス
1. ヘラクレスはすくすくと育ち、八ヶ月となったときヘラが再び邪心をおこし、ヘラクレスを殺そうと二匹の蛇をヘラクレスの寝ているゆりかごに送りこんでくる。
2. 母親のアルクメネはびっくりして夫のアンピトリュオンを呼ぶが、その前にまだ八ヶ月の赤ん坊であったヘラクレスはスックと立ち上がり、この二匹の蛇を両手でつかみ絞め殺してしまう。

ヘラクレスの少年時代
1. 少年となったヘラクレスは、様々の武芸を一流の師匠について学び、また竪琴をオルペウスの兄弟であったリノスに学ぶ(音楽は後のギリシャにあっても教養の第一にあった)。
2. 師匠リノスに殴られたヘラクレスは怒り、竪琴でリノスを殴り殺してしまう。こうした乱暴を父アンピトリュオンは心配し、ヘラクレスを牧場へと送ってしまう。ヘラクレスはこの田舎で育ち、武芸百般、弓矢においても槍においても百発百中の腕を身につけた。

成人の後
1. 18歳のヘラクレス、50人の娘と交わる。
2. キタイロン山の獅子退治。
3. ヘラクレス、エルギノスを挑発、せめてきたエルギノスとの抗争。
4. 父アンピトリュオンが討ち死に。ヘラクレスの活躍。テバイの王であったクレオンから褒美として娘のメガラをもらい、三人の息子を得る。
5. 女神ヘラは再びヘラクレスを憎み、ヘラクレスを発狂させる。発狂のヘラクレス、子ども達を殺害してしまう。
6. 狂気から覚めたヘラクレスは絶望して、みずから自分を「追放の刑」に処する。
7. アポロンに今後のことを占ってもらうべくデルポイへと赴く。
8. アポロンの巫女はヘラクレスに、テュリンスに行ってエウリュステウスに12年間仕え、命じられる10の仕事をしろ、さすればお前は不死の身となろう、と神託を与える。

2の難行。その1、ネメアの獅子退治。
1. この獅子は怪物「テュポン」から生まれた「不死身の怪物獅子」であった。ヘラクレスは弓矢や刀が役にたたないので棍棒で戦い、首を絞めて失神させ、その皮をはいで終生それを身につけることになる。この獅子の皮をかぶり、棍棒を持つのがヘラクレスの姿となる。
2. 獅子を担いでミケーネに凱旋する。命令者エウリュステウスはこれを見て肝を潰してしまい、これ以降彼が町の中に入ってくるのを許さず、しかも青銅の大きな壺を用意して地中に埋め、ヘラクレスが帰ってきたと聞くとその中に隠れるようにした。

第2の難行。レルナのヒュドラ(水蛇)退治。
1. 第2の難題はレルナの沼に棲む巨大な「水蛇ヒュドラ」を退治すること。このヒュドラは「九つの頭」を持ち、しかも真ん中の頭は不死であった。残りの八つにしても簡単には滅びず、一つの頭が潰されるとそこから二つの頭が生えてくるといった代物で、それに加えて「猛毒」を持っていた。
2. ヘラクレスは、兄弟のイピクレスの息子である甥のイオラオスを伴う。ヘラクレスはそのヒュドラの頭を棍棒でたたきつぶすが、次から次ぎと頭が生えてきてしまう。
3. しかも、一匹の巨大な蟹が出てきてヘラクレスの足をはさんでヒュドラを助けようとする。ヘラクレスはこれを踏みつぶす。
4. ヒュドラは大敵で、やむなくヘラクレスはイオラオスに助けを求め、イオラオスは森に火を付け燃えさかる火を以てヒュドラの頭を焼き、新たな頭がはえでてくるのを阻止した。
5. ヘラクレスは中央の「不死の頭」は切り落として地中の埋め、その上に重い岩をおいて出てこれないようにして、こうしてやっとヒュドラを退治する。
6. その時、ヘラクレスは自分の矢が無敵になるように、このヒュドラの流した血にそれを浸し「毒矢」にしてしまう。
7. 一方、エウリュステウスはこれを「難題の完遂」とは認めなかった。イオラオスの助けをうけていたからである。

第3の難行。ケリュネイアの鹿の生け捕り。
1. 第3の難題は「怪獣退治」ではなく、むしろ「聖なる獣」を捕らえることであった。エウリュステウスの命令はケリュネイアの鹿を捕らえることだったが、この鹿は「黄金の角」を持ち、女神アルテミスに捧げられていたものだった。
2. ヘラクレスはそれを傷つけることはできない。やむなくヘラクレスは一年間も後を追って、隙をねらい、河を渡ろうとしているところを弓で射て追い込んで、やっと生け捕りにする。
3. 運んでいく途中、たまたま女神アルテミスと神アポロンに出会って、アルテミスにその行いを責められるが、ヘラクレスはこれがエウリュステウスの命令であり罪は彼の方にあることを説明して許してもらい、やっとミケーネに持ち運ぶことができた。

第4の難行。エリュマントスの猪狩り。
1. 第4の難行はまたしても「動物狩り」で相手は「猪」だったが、これは前の三つに比べるとヘラクレスにとっては、いとも簡単な仕事であった。猪を追い出し、深い雪の中に追い込んで動けなくして何なく捕まえてしまう。
2. ただ、それはよかったのだが、途中でケンタウロスのケイロンとポロスとに出会い彼らを殺してしまうという事件を起こし、これは別の物語に展開する(射手座の項参照)。

第5の難行。アウゲイアスの家畜の糞掃除。
1. 第5の難行は「家畜の糞掃除」というものであった。アウゲイアスというエリス地方(オリュンピアの西方地方)の王が巨万の家畜を持っていて、その家畜小屋には巨大な糞がうずたかくつもっていた。これをたった一日で掃除してこい、というのが命令であった。
2. ヘラクレスは家畜小屋に沿って流れている河を利用し、その水を導入して一気にその糞を押し流してしまった。
3. ヘラクレスは、エウリュステウスの命令であることは隠して、うまくいったら家畜の十分の一をもらいたいと持ちかけ、できっこないと高をくくった王と約束を交わしてこの仕事にかかっていた。
4. ところが、これがエウリュステウスの命令であったということがバレて、アウゲイアスは報酬をあげることを拒否してくる。しかし、王の息子であったピュレウスが「約束は約束である」といって父を非難してきて、結局二人ともこの地を追われるということになってしまう。
5. 一方、エウリュステウスは「自分の命令通り」ではなかったとしてこれも「成功」とは認めなかった、となる。

第6の難行。ステュンパロスの鳥を追い払うこと。
1. コリントスから西に行ったところにステュンパロスというところがあり、そこは鬱蒼とした森と湖があった。そしてそこには何万という鳥が巣くっていて人畜に被害を与えていたので、その鳥を追い払えという命令がなされた。
2. ヘラクレスはそこに出かけたが、今度ばかりはどう手をつけていいか分からず途方に暮れてしまう。そこに女神アテネが現れ、神ヘパイストスがつくったという「ガラガラ」を与えてくれ、それを近くの山から鳴り響かせ鳥を追い払った。

第7の難題。クレタの牡牛を捕まえること。
1. 「クレタ島」に巨大な牡牛がおり、その凶暴な牛を捕まえることが仕事であった。ヘラクレスは一人で牡牛を捕らえ、エウリュステウスのもとに帰った。
2. この牛はその後自由にされて各地を彷徨ったあげく、マラトンの地に住み着いて住民を悩まし、そしてテセウスによって退治されるという「テセウス伝説」につながる。

第8の難行。トラキアの牝馬を持ち帰ること。
1. トラキア地方(ギリシャの北方地方)に「人喰い牝馬」がいた。今度はその馬を捕らえて持ち帰ることが仕事となった。ヘラクレスは同行の士を募ってでかけ、到着するやその馬の世話をしている者たちを制圧してその馬を手にいれる。
2. しかし事態を知った土地の王の配下の者が襲いかかってきたので、ヘラクレスは連れてきたアブデロスという少年にその馬を預けて敵を迎え打ち、その地の王を討ち取り敵を敗走させる。
3. その間、アブデロス少年は馬に引きずられて死んでしまうという事件がおきて、ヘラクレスはそのアブデロス少年を葬り、その地に一つの都市を築くことにした。その都市が「アブデラ」で、後にギリシャ哲学史で出てくるデモクリトスやソフィストのプロタゴラスの故郷として有名になった。
4. 一方、その牝馬はエウリュステウスのもとに連れてこられた後、釈放されて故郷のトラキアを目指して帰って行ったが、故郷が望めるくらいのところにあるギリシャ北方のオリュンポス山まできたところで野獣に襲われ、喰い殺されてしまった。

第9の難行。アマゾンの女王ヒッポリュテの帯を持ってくること。
1. 次の難題は「女だけの軍隊アマゾン」の女王、ヒッポリュテの帯を持ってくることであった。その女王は女王の徴として「戦いの神アレスの帯」を身につけていた。そしてそれをエウリュステウスの娘が欲しがったので、ヘラクレスがこれを取ってくるよう命令されてしまった。
2. ヘラクレスは再び仲間を募って出帆し、アマゾンの地までやってきて、ヒッポリュテに訳を話し、彼女は多分いざこざを起こすと厄介な相手と思ったのか、帯を与えることを承知する。
3. しかし、これをみていた女神ヘラがまたしても邪心をおこし、人間の女に身を変えて、見知らぬ連中が女王をさらいにやってきたと触れて回って、かくして武装したアマゾン軍が攻め寄せてくることになってしまう。
4. 騙されたと思ったヘラクレスは女王のヒッポリュテを殺してしまい、帯を奪って出航していく。

第10の難行。エリュテイアから牛を持ってくること。
1. 地の果てのオケアノスの近くにあるというエリュテイアという島から、胴体は一つなのに上半身は三つあり、足も三人前という怪人ゲリュオネスのもので、さらに二つの頭を持つ怪獣犬が守っている「紅の牛」を奪ってくることが今度の仕事だった。
2. ヘラクレスは、数々の冒険をしながらそこにたどりつくが、途中、現在のアフリカとヨーロッパが向かい合っているところに「柱」を立て、後「ヘラクレスの柱」と呼ばれことになった。従ってヘラクレスは地中海の西端にまできたことになる。古代ギリシャ人はここまでを自分たちの活動領域としていて、その外つまり大西洋に「オケアノス」をみていたのかもしれない。
3. この物語は、途中太陽神ヘリオスとの逸話があったり、イタリアという地名の所以の話しがあったり、また例によってヘラの邪魔があったり、様々な話しに彩られながら展開し、少々乱れた逸話がたくさん挿入され分かりにくいが、ともかく成功する。

第11の難行。ヘスペリスの黄金のリンゴを持ってくること。
1. 仕事は本来「10」のはずであったが、「レルナのヒュドラ退治」と「エリスの家畜小屋掃除」は認められず、さらに二つの難行が加わってしまう。その一つは(11番目となる)は「ヘスペリスの持つ黄金のリンゴ」をとってくることであった。
2. その「リンゴ」というのは、あのゼウスとヘラが結婚した時に「大地の女神ガイア」がゼウスに贈ったもので、それをヘスペリス四姉妹と不死身の「百の頭を持った龍」が守っているのであった。
3. ヘラクレスは出かけ、幾つかの逸話があり、彼は何にでも姿を変えられるネレウスという「海の老人」のところに出向く。このネレウスは何でも知っていたからで、そしてヘラクレスはネレウスが眠っているところを襲い、あらゆるものに変身して逃れようとする彼を放さず縛り上げてしまう。ネレウスはその在処をヘラクレスに教える。
4. ヘラクレスはリビアを通りすぎ、そしてさらにエジプトを通って、この間、旅人に相撲を挑んではそれを投げ殺してしまうという王を逆にやっつけたり、そしてある国で、旅人をゼウスの祭壇で犠牲にしてしまうという王を退治するという仕事もしていく。
5. そしてさらにアジアを通ってアラビアに沿って進み、「縛られた神プロメテウス」のところにやってくる。
6. この「予知の神」であった巨人神は「スキュティア」の山にくくりつけられて、毎日鷲が彼の肝臓を喰いに来ていた。ヘラクレスはその鷲を退治してやり、プロメテウスを解放し、その教えによって、やっとヘラクレスはヒュペルボレオス人のところに到達して、この地にあってこの大地を支えているアトラスに「リンゴ」を取りに行ってもらう。
7. アトラスがリンゴをとりに言っている間は、ヘラクレスが代わってこの大地を支えていた。アトラスは無事リンゴを持って帰ってきたが、彼はヘラクレスに、自分がエウリュステウスのところにリンゴを持っていくからお前が大地を支えているように、と言い出した。
8. ヘラクレスはさりげなく、それもいいが、だとすると支えの「当て」をする必要があるからそれを取ってくると言ってアトラスに大地をわたす。アトラスはリンゴを置いて、再びその大地を受け取ってしまう。
9. こうしてヘラクレスは黙ってリンゴを拾い上げると、そのままその場を立ち去っていった。こうしてエウリュステウスのもとに届けられたリンゴは再びヘラクレスに戻されたが、それは女神アテネに返され再びもとの場所に戻された。

第12の難行。冥界の番犬ケルベロスを連れてくること。
1. 最後の難行は「死者の国の番犬ケルベロス」を連れて帰れ、というものだった。この犬は普通の犬ではなく、三つの頭と、龍の尻尾、そして背中にはあらゆる種類の蛇が生えていた。
2. ともかく「死者の国・冥界」に行かなくてはならない。そこでヘラクレスは「冥界とのつながり」があるとされるエレウシスという秘教の地へと赴く。その入会資格のことで問題がいろいろあったが、しかしともかく冥界へと降りていく。
3. ラクレスは、エウリュステウスの命令であることは隠して、うまくいったら家畜の十分の一をもらいたいと持ちかけ、できっこないと高をくく途中様々の亡霊に行き会い、ついに「冥界の王」のところにやってくる。冥界の王ハデスは、武器を使わずケルペロスを屈服させられたら連れていってもよい、と言った。
4. 途中様々の亡霊に行き会い、ついに「冥界の王」のところにやってくる。冥界の王ハデスは、武器を使わずケルペロスを屈服させられたら連れていってもよい、と言った。
5. しかし、それを見届けに来たエウリユステウスの使者は「ミミズク」になってしまう。エウリユステウスは何時も隠れる壺の中に身を隠して恐れおののいていた。そしてヘラクレスは再びこれを冥界にと連れて帰った。

その後の物語
 ヘラクレスの物語はこの後も延々と続いていく。後に続く物語の中で有名なものは「デルポイでの、神アポロンと神託の三脚台を巡っての抗争」「クレタ島の迷宮から脱出したあと翼を失い海へと墜落したイカロスの死体を拾い弔ってやり、その島をイカリアと呼ぶことにした、という現在のイカリア島の由来」「トロイ攻めと、その帰りヘラに邪魔されコス島に流され、それがもとでヘラがゼウスの怒りを買い、彼女がつり下げられる、というホメロスの叙事詩にも出てくる話し」「オリュンピアでペロプスの祭壇を築き、オリュンピア競技を開設した所以」、「ピュロスを攻めネストル以外の王族が全滅させられた話し」「その際、冥界の王ハデスがヘラクレスに傷つけられた話し」などなどがある。

ヘラクレスの死
 ヘラクレスの「死」については、エウリピデスの悲劇『ヘラクレス』のテーマともなっているものだが、それはヘラクレスの妻デイラネイラの悲劇でもあった。
1. かつて二人がある河を渡ろうとしたとき、ケンタウロス族のネッソスが「渡し守り」をしており、そこでヘラクレスは自分で河を渡る一方、このネッソスに妻のデイラネイラを渡してもらうよう頼む。ところがこのネッソスは途中でこともあろうにデイラネイラを襲って、犯そうとしてきた。
2. 悲鳴を聞きつけてヘラクレスは弓矢をとってこのネッソスを射殺す。しかし、ネッソスはデイラネイラに、自分の血は「媚薬」になるからそれをとっておきヘラクレスが浮気したときに使うと良い、と言い置いて死んでいく。
3. ネッソスは自分の血がヘラクレスの毒矢によって「ヒュドラの毒」に化していたことを察知していて、復讐をたくらんだのだった。
4. デイアネイラはそれを信じ、その血をこっそり隠し持っていく。そして数年後、ヘラクレスは案の定イオレという娘に心を移してしまう。デイアネイラはそれを知り、ヘラクレスの心を取り戻そうと例のネッソスの血を思いだし、それをヘラクレスの着物に塗ってしまう。
5. しかしこれは何人といえども癒せないヒュドラの血の毒であったので、ヘラクレスはのたうち回り、デイアネイラは悲しみと絶望のうちに首をくくって死んでいく。
6. ヘラクレスは火葬の準備をしてそこに身を横たえ、通りかかったポイアスという男(一般にはソポクレスの悲劇で有名なピロクテテスと紹介。ただしこのポイアスはピロクテテスの父親なので、いずれにせよヘラクレスの弓はピロクテテスのものになる)が火をつけてやり、ヘラクレスは彼に自分の弓を与えた。
7. こうして彼は火炎と共に「天」に昇っていき、そこでやっとヘラと和解しその娘「青春の女神ヘベ」を妻にした。

▲ページのトップへ