3.ギリシャ神話、その主題と旋律 - 3. 宇宙ないし神々の生成の物語 | 小澤 克彦 岐阜大学・名誉教授

ギリシャ神話、その主題と旋律
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INDEX
1. ギリシャ神話とは
2. ギリシャ神話の日本語資料
3. 宇宙ないし神々の生成の物語
4. クロノスの一族
5. プロメテウスの神話
6. オリュンポスの神々の物語
7. 神々の「恋」と「異性関係」
8. 闇の神々
9. 神話を彩る妖精たち
10. 英雄ペルセウス伝説
11. 豪傑ヘラクレス伝説
12. アルゴー船伝説
13. テセウス伝説と迷宮の神話
14. テバイを巡る三つの伝説
15. 英雄アムピアラオス伝説
16. トロイ戦争伝説の大筋
17. トロイ戦争の発端と前夜
18. トロイ戦争(ホメロスの『イリアス』全24巻の内容)
19. トロイの落城にまつわる諸伝承
20. トロイからの帰還物語
21. 星座のギリシャ神話、
黄道12宮の星座物語

3.

宇宙ないし神々の生成の物語

「宇宙開闢の四柱の神々」 「原初の神々の生成・混沌のカオスからの生成」 「原初の神々の生成・大地ガイアからの生成」 「初代の神・大地ガイアと天ウラノスからの生成」 「クロノス、天ウラノスから主神の座の奪取」 「美神アフロディテの誕生」


宇宙開闢の四柱の神々
 宇宙の始めについて、最初の神話作家ヘシオドスの説明はない。ただ、「何やら分からない、名前も形も色も匂いも何にもないのだけれど、何か宇宙の原質となるようなものがあった」と想定するしかない。ともかく「始めに原初のものがあった」とする。ここから宇宙開闢が始まるのだが、その運動についても説明はない。しかし、ともかく活動し始め、この世界を生み出していくことになる。
 ヘシオドスは「最初に生じたものは何か」と問うて、「始めにカオスが生じた」と言う。カオスというのは通常「混沌」と訳されるが、ここでは「開き口」あるいは「空隙」くらいの意味だろう、と考えられる。つまり、何かが開かなければ何も始まらない。あるいは、物と物とを分け隔て(空隙の観念)、「一つの物」として認知させる「形の形成の原理」かとも考えられる。なぜなら、「空隙」がないということになったらすべては「一つ」になってしまって「物の形」などなくなってしまうから。この状態が「混沌」とも言える。  
 ついで「ガイア」が生じた、という。この
ガイアというのは「大地」を意味する。これはわかりやすいが、ところが続けて第三の神として「大地の奥底にタルタロス」といってくる。このタルタロスというのは「無間」を意味し、イメージ的には底なしの空間となる。こんなものが何故「はじめの神」とされているのか説明はないが、大地が形あるものの生成の「材料的原理」と考えられるのに対して「消滅」の原理であると考えられる。というのも、ここは「二度と地上にでてくることができない」ところであるからで、後には「永遠の地獄」となってくる。生成ばかりでは増える一方になってしまうので「対概念」してこんなタルタロスのごときを言ってきたのかも知れない。
 そして四番目に
「愛神エロス」が生まれた、と言ってくる。このエロスはヘシオドスによって「神々の中でも最も美しく」「神々や人間の心や思慮をうちひしぐ」と語られているので、要するに我々の知っているあの「愛」でいい。これが、二つのものを引き寄せて子供を生む原理であることはいうまでもない。

「宇宙創生」の原初の神々の形成、「混沌のカオス」からの生成
 上記の宇宙開闢の四柱の神々は展開して「宇宙を創生していく原初の神々」を生み出していく。はじめの「混沌のカオス」の場合、つぎに神エレボス(暗黒)と女神ニュクス(夜)を生む。これはエロスの働きではない。カオス自身の展開といった記述の仕方となっている。次にエレボスとニュクスからアイテル(澄んだ気)とヘメレ(昼の日)とが生まれる。こちらは「情愛の契り」をして、と語られる。こうして「闇と明」「夜と昼」とが生成したことになる。
 ついでヘシオドスは、夜のニュクスが「誰とも寝床を一つにする事なく、一人で」生んだ子供たちを列挙する。「夜」という名前に付いて回る「暗いイメージ」の子供たちで、例えば「忌まわしい定めのモロス」とか
「死の命運のケル」とか「死のタナトス」「眠りのヒュプノス」「夢のオネイロス」などが挙げられてくる。その他、非難とか苦悩、運命、憤り、欺瞞、欲情、老齢、争い、苦労、忘却、飢餓、悲嘆、戦闘、殺害、殺人、紛争、虚言、口争い、不法、破滅などなどの子どもを生み出して行く。これらは普通名詞であるが、同時に「擬人神」となる。

原初の神々の形成、「大地のガイア」からの生成
 一方、「大地ガイア」の子どもは「形ある自然物」となり、まず大地ガイアは「天ウラノス」を生み出す。これも「一人で生む」ので、言わば「分身」といえる。ヘシオドスは、「こうすることで大地が神々の揺るぎない座になるためだ」、と語っている。さらに大地は「山々(名前はない)」を生み、そして「海原ポントス」を生み出す。この「山と海」は大地の分身であることは分かりやすい。
 その次からはエロスが活躍する。まず
「大地ガイアと天ウラノス」の組み合わせをつくり、ついで「ガイアと海ポントス」の組み合わせをつくる。さらに大地ガイアはタルタロスとも交わることになる。
 ここでやはり一番大事なのは天ウラノスとの関係である。ここから生まれてくる者たちがギリシャ神話の主人公となる。もちろんオリュンポスの12神もこの系譜にある。

「大地ガイアと天ウラノス」からの生成
 大地ガイアと天ウラノスは添い寝して子供たちを生む。まずは詩人ホメロスの叙事詩の中で「神々の祖」とまで言われていた
「大洋オケアノス(この英語発音がオーシャンとなる)」を、そしてさらに偉大な神々を生んで行き、「掟の女神テミス」や、「オケアノスの妻、女神テテュス」などが挙げられる。そして、後にこの種族は「ティタン神族ないしクロノスの一族」と呼ばれることになるのだが、その名前の由来でこの一族の「主神となるクロノス」たちを生む。さらに、「一つ目の巨人キュクロプス兄弟」、そして最後に「百手の怪人神ヘカトンケイレス兄弟」を生んで行く。

ウラノスの滅亡
 ところが、天ウラノスはこのヘカトンケイレスを憎み(後の617行で三人の名前を挙げて、彼等の無類の勇気と容貌、体躯をねたんで、といわれている)、大地ガイアの奥底に彼等を押し込んでしまったという。だが大地ガイアの方は腹いっぱいに詰め込まれて呻き、怒りで復讐をたくらんだ、となる。こうして、大きな鎌を作って、子供たち(クロノスの一族)に反逆をそそのかす。しかし皆、天なる父ウラノスの力を恐れ、尻込みする中、一人「クロノス」が母への協力を申し出る。こうして母ガイアは大鎌をわたして待ち伏せの場所にクノノスを隠し、ウラノスが天からおりてくるのを待ち受ける。ウラノスはガイアのもとを訪れ、横たわるガイアの上に覆いかぶさってくる。その時を待っていたクロノスはウラノスの偉大な一物を左手にむんずとつかみ、右の手にもった大鎌でその巨大なやつをバッサリ切り落としてしまう。ウラノスは自分の子クロノスをののしり、この報復が後にやってこようと呪いをかける(この呪いは実現することになる)。

美神アフロディテの誕生
 一方、傷口からは血がほとばしり出て、それはガイアに受け止められて、「復讐の女神エリニュス」と巨大なギガンテス(ジャイアンツの語源で野蛮な巨人)、長槍の柄となるトネリコの精メリアイ」が生まれる。
 しかし、
「切り取られた一物」の方は海へと投げ捨てられ、海原をただよっていくうちにやがてその回りに白い泡が沸き立ち、その「泡にまみれた一物」からはそれは美しい乙女が生まれ出てきたという。これが「美の女神アフロディテ」の誕生であった。
 ヘシオドスは「美の本質」をここに見ているようで、それは男根という「生む」性格を持ち、「怨念」を伴い、「復讐の女神」と「殺戮と闘争」のシンボルを兄弟・姉妹に持っている、というわけである。人間の歴史はどれだけ「美しい女」のために「怨念と復讐」の「殺戮劇」をみせ、どれだけ男達は「戦って」きたことかをみれば納得できる。
 ともあれ、アフロディテは流れてキュプロス島に上陸する。そこに、あの原初の神の一人であった
「愛の神エロス」が彼女の「従者」になるべく、「欲望ヒメロス」を伴って現れてきたという。この時以来エロスは「若者」の姿になってしまったようである(彼はさらにもっと若返り、ローマ時代にはついにキューピッドという赤ん坊にまでなってしまうという数奇な人生を送ることになる)。ちなみにエロス自身は「燃え上がる恋の心」を司るけれど「性欲」は司っていない。それを司るのはヒメロスの方であって、したがってここにヒメロスまで登場してきてアフロディテの性格を「美と愛と性」とにしてきたというわけである。こうしてこの女神の持ち分は、ヘシオドスの語りでは「娘たちの甘い囁き、ほほ笑みと欺瞞、甘美なよろこび、情愛と優しさ」というわけで、じつにこうして男達は翻弄されることになってしまったのである。

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