13.キリスト教の祭りと行事 - 4. 12大祭 | 小澤 克彦 岐阜大学・名誉教授

13.キリスト教の祭りと行事
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INDEX
1.クリスマス
2. 復活祭
3. バレンタインその他の祭
4. 12大祭
5. 典礼・奉神礼・礼拝
6. 「ミサ」と「聖体礼儀」
7. 秘蹟・機密

4.

12大祭


はじめに
 「12大祭」というのは、イエスにまつわる事績の中でも、もっとも重要とされる
「12の事績を祭った祭儀」ということですが、これは伝統的なキリスト教である「正教」にはそのまま残っていますが、この正教から分離した「カトリック」さらに「プロテスタント」ではこうした用語はないようです。しかし、内容的にはこの概念を引き継いでいると言えます。
 とにかく、伝統のビザンティン教会を訪ねますと教会内部一面にイエスやイエスにかかわる事跡の絵が壁一杯に描かれており、それを
「イコン」といいますが、その題材が12大祭であることが多く、さらにカトリック世界に行っても「西欧の絵画の題材」としてもこれが良く使われていますので、その理解のためにもこれを説明しておく必要があると言えます。
 またそのことは、初期キリスト教がイエスにかかわる事跡の中で何を大事にしていたのかが伺い知れるわけで、そうした意味からも大事となります。

 さて、伝統的キリスト教である正教会では何よりも
「復活祭」を大事としていることは「復活祭」のページで紹介しておきました。その復活祭に加えて「12」の祭日を特に重要な祭日として特別の儀礼をもって祝う日と定めたのでした(ですから大事な祭日は、都合13となるわけですけれど「復活祭」は特別扱いというわけ)。それを祭儀の日付順に列挙すると以下のようになります。
 日付ですが、正教会ですからもちろん「ユリウス暦」での日付となります。一般に使われているグレゴリウス暦に直すには、とりあえず13足すとグレゴリウス暦の日付に近くなります(もちろん年数によってずれてくる)。つまり1月6日の「主の洗礼祭」はグレゴリウス暦に直すと「1月19日」になります。私たちとしては、1月19日に正教の教会が「主の洗礼祭」を祝っていると思ってしまいますが、実はそれは違っていて本当は「1月6日の祭り」であった、というわけでした。ややこしいです。とりあえず月日の順序で示すと以下のようになりますが、ただし、事跡の順序はこれと異なり、
「マリアの誕生」から始まって「マリアの死」までの順序となっていて、イコンを並べる時には月日順ではなく、この「事跡の順序」となります。

1.1月6日「主の洗礼祭」ないし「神現祭」。普通には「イエスの洗礼」
 いうまでもなくイエスが洗礼者ヨハネによってヨルダン川で
「洗礼」を受けた事跡を記憶するものです。この洗礼を「神現祭」というのは、この洗礼の時にイエスは「神」であることを表したとなるからです。
 図柄としては、そのものズバリで、イエスが川に入ってヨハネによって洗礼を受け、天が裂けて聖霊を表す鳩が現れてイエスの頭上に描かれる、となっています。しばしば傍らに天使が描かれています。

2.2月2日「主の迎接祭」。普通には「イエスの神殿奉献」
 イエスが出産後40日を経て、母マリアと養父ヨセフによって神殿において聖別される儀式を受けた、とのルカ福音書2.22〜40の記述にもとづくもので(ルカだけにしかない記述)
「神殿奉献」とも言われます。
 図柄は、神殿の内部に
老預言者シメオンがおり、そのシメオン(神殿の祭司の姿をしている)に母マリアがイエスを差し出す場合と、シメオンが衣で覆った両手でイエスを抱え、マリアに(立っている場合とひざまずいている場合とがある)差し出すという二通りの図柄になります。傍らに女預言者「アンナ」がおり、アンナはイエスを救世主キリストと認めるという大事な役柄を担っています。これは正教におけるイコンだけではなく西洋での絵画の題材としても良く使われています。

3.3月25日「生神女福音祭」。カトリックでは「神のお告げの祭日」。普通には「受胎告示」
 これは天使ガブリエルがマリアに現れてキリストを宿したことを告げたという場面で、これも「ルカ福音書」にしかない記述となります(1.26〜38)。(「マタイ福音書」では、天使は夢の中で「ヨセフ」に現れて、マリアの生む子を「イエスと名付けよ」と言っただけで「マリア」には現れてきません。「マルコ」「ヨハネ」の二つの福音書ではイエスの受胎の描きすらありません)
 この祭儀はむしろ西欧のカトリック世界でとりわけ際だつことになり(マリア信仰はカトリックが圧倒的に強い)、
「お告げの祈り」というものを一日に三回、午前六時と正午、そして午後六時に唱える習慣ができあがっていきます。この時に鳴らされる鐘を「お告げの鐘」といいます。
 この図柄は一般にもよく知られ、マリアの前に羽根を持った
「天使ガブリエル」が立ちイエスの懐妊を告げているという図柄になります。それに「聖霊」を意味する「鳩」が描かれるのが定番です。
 情景は、古くは「井戸端で水を汲むマリア」あるいは「糸紡ぎのマリア」ですが、中世の西欧に「読書(『聖書』を読む)のマリア」が現れます。また、中世末期頃からしばしばマリアは百合の花を持たされていますが、これは「純潔」を表し、「処女マリア」を表しています。ルネサンス以降は、作者の想像力が勝手に駆使されているため定型はないです。

4.8月6日「主の変容祭」普通には「変容」
 これも「ルカ福音書9.28以下」にしか描かれていない情景ですが、イエスが山に登り、そこでイエスの顔が変わり、衣装が白く輝き、預言者モーゼとエリアと共に語り合い、付いていったペテロたちは熟睡していたが目を覚まして訳の分からないことを言っていた時、雲がイエスを包み込み「これは私の子、私が選んだ者である。これに聞け」という声がしたという伝承に基づくものです。イエスが人間の姿から変容して
「神の子」である本性を現した場面というわけです。これは「昇天」「再臨」と並んでイエスの神聖の顕現として良く知られており、修道士たちにとって自分たちの修道の目指すところと捕らえられていたようでとりわけ大事にされたようでした。
 図柄は、山の上にイエスが立ち、光りの輪を背後に持つというもので両脇に
「預言者モーゼとエリア」がたっています。山の下ではペテロとヤコブとヨハネが恐れおののいているといった図柄が一般的です。

5.8月15日「生神女就寝祭」普通には「聖母の眠り」ないし「聖母被昇天」
 『聖書』には全く記述はないのですが、どういうわけかこんな祭りが作られてしまいました。これも「マリア信仰」のせいでしょう。ちなみに『聖書』には「マリア信仰」を示唆する言葉の断片すら全くありません。これは後世になって作られていったものです。それはそれてして、この祭りは
「マリアの死」を記念するもので、図柄は、中央のベッドに死に行くマリアが横たわり、回りに悲しみに沈んだ弟子たちがそれを見守り、背後にイエスが立ってマリアの魂を天使にゆだねるといったところが基本形となります。

6.9月8日「生神女誕生祭」普通には「聖母誕生」
 マリアの生涯について現行の『聖書』は何も語ってはいません。従って、その誕生についても何も語ってはいないわけですが、キリスト教世界は本来否定しなければならないはずの外典(「ヤコブ原福音書」「偽マタイ福音書」「マリア降誕の福音書」など)まで引っ張りだして、この
「マリア誕生」の逸話を作り上げてしまいました。こうして、荒野で断食をしているヨアキムに天使がマリアの誕生のお告げをし、さらにヨアキムの妻アンナにもお告げがあって、夫婦はエルサレムの「黄金門」のところで出会って喜び合う、という図柄ができあがっていきました。

7.9月14日「十字架挙栄祭」普通には「十字架称賛」
 伝承によると、コンスタンティヌス皇帝の母にあたる「ヘレナ」が326年にエルサレムに赴き、9月14日にイエスが掛けられた十字架、打ち付けられた釘、イエスの頭にかぶせられた茨の冠などを発見し、ここが「ゴルゴタの丘」だとしたとされます。そののち335年にコンスタンティヌス皇帝はイエスが十字架に掛けられたこのゴルゴダの丘に
「聖墳墓記念聖堂」を建設したとなります。こうしてこの9月14日に十字架を掲げる儀式が行われるようになったというわけです。

8.11月21日「生神女進堂祭」普通には「聖母マリアの神殿奉献」
 マリア伝説の続きになるのですが、マリアが生まれて3歳になった時、ユダヤ教の神殿に仕えることになった(14歳で結婚ということになるまで)という伝説に基づくものです。

9.12月25日「主の降誕祭」普通には「降誕・クリスマス」
 これについては「クリスマスの章」ですでに紹介してあります。

以上までが
「固定祭日」ですが、以下のものは年ごとに変化します。
10.復活祭の前の主日(日曜)「聖枝祭」普通には「エルサレム入城」
 現行の四つの福音書が共に記しているように、イエスはその宣教活動の最期としてイエルサレムに上がってユダヤ教の神官たちと対峙することになるわけですが、そのイエルサレム入城に際して、民衆は自分の服ないし葉のついた木の枝(ヨハネ福音書では「ナツメヤシの枝」)を道に敷き詰め「ダビデの子としてのメシア」として歓迎されたとなっています。この時イエスは
「小さなロバ」に乗ってやってきたとなり、将軍的なメシア像を破棄しているという神学的なメッセージが込められています。

11.復活祭後40日「主の昇天祭」普通には「イエスの昇天」
 イエスは十字架の死から復活して40日目に昇天していったという「使徒行伝1.3以下」の伝承に基づいた記念日です。図柄は、光に包まれたイエスが天使に支えられて天に挙げられていく「被昇天」図と、自分で昇っていく図柄の二つが基本形となります。

12.復活祭後50日「聖神降臨祭」普通には「聖霊降臨」
 同じく「使徒行伝2.1以下」は、イエスの昇天に続いて50日目
(ペンテコステ・五旬節という)に「聖霊」が弟子達に降臨した次第を伝えます。それを記念した祝日となります。図柄としては、マリアを中心に弟子達があつまり、そこに聖霊を象徴する「鳩」が頭上に下降してくるといったものになります。マリアが加えられているのは、この聖霊降臨が教会の形成を意味すると捕らえられ、他方マリアは教会のシンボルなのでここに加えられたということになります。

以上が「祭儀」としての12大祭ですが、
「イコン(聖画)」として表す時には「イエスにまつわる事跡の順序」として大体次のようになります。
「受胎告示」
「降誕」
「神殿奉献」
「洗礼」
「変容」
「ラザルの蘇生(これは祭儀としてはない)」
「エルサレム入城」
「十字架刑(「十字架挙栄祭」
は発見された十字架そのものを称揚する祭儀となっていて、「十字架刑そのもの」が記念されているわけではありません)」
「復活(これは12大祭のさらに上の特別の最大儀礼です)」
「昇天」
「聖霊降臨」
「聖母の眠り」
を用いることが多いですが、時代や場所によって少し異なっています。

 このイコンの配列の順序は、ほとんどの場合教会堂の南壁からはじまり西面を通って北面で終わるという順番になっています(西が入り口と決まっているので、南とは右手になる)。なお、東面に当たる正面は
「イコノスタシス」と呼ばれる「壁状のついたて」があるのが普通で、ここにもイコンが掛けられています。ロシア正教のイコノスタシスは壮大になっており、さまざまのイコンが掛けられていますが、ここに12大祭のイコンがずらっと掛けられていることも多いです。イコノスタシスの場合には順序は左から右に向かって事跡の順序となります。
 さらにこれに加えて「最後の審判」とか「病人の癒しの奇跡物語り」とか「最後の晩餐」とかのなじみの図柄が見られることも多く、さらにこうした基本の図柄に加えて「その教会の所以、聖人、あるいはその教会独特の絵柄」が描かれていることも普通です。
 なお、「イコン」そのものについては「キリスト教の光と影」のページに説明してあります。

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