13.キリスト教の祭りと行事 - 3. バレンタイン、その他の祭り | 小澤 克彦 岐阜大学・名誉教授

13.キリスト教の祭りと行事
HOME
INDEX
1.クリスマス
2. 復活祭
3. バレンタインその他の祭
4. 12大祭
5. 典礼・奉神礼・礼拝
6. 「ミサ」と「聖体礼儀」
7. 秘蹟・機密

3.

バレンタイン、その他の祭り


はじめに
 キリスト教の祭り(と思われているもの)には聖人を祝う日があり、日本でも有名なものが「聖ヴァレンティヌス」に由来する
「バレンタイン・デー」となるでしょう。祭りの日といえばそのほかにもカーニバルとか感謝祭、ハロウィンなどが日本で知られています。それらについて紹介しておきます。
 キリスト教では、初期の時代から
「殉教した人の命日」を記念することが行われていて(聖名祝日)、それがだんだん拡大されて功績のあった者も聖人とされていき、こうして一年中毎日が何らかの聖人の日とされるようなことになっていきます。もちろん一日が一人に割り当てられたわけではなく複数いてもおかしくありません。
 従って、子どもが生まれるとその誕生日が必ず誰か聖人の日となっているため、その聖人の名前を洗礼名ないし堅信名とすることが一般化しました。他方、その聖人の命日は祝祭日と同一ではないため、その洗礼名を持つ人はその聖人の命日・聖名祝日にも盛大な祝いをするようになります。こうしてたとえば現在のギリシャでもそうですが、自分の誕生日は大した祝いをせず、その代わりに
自分の守護聖人となっている聖人の聖名祝日に盛大な誕生祝いをするといった習慣が生まれました。
 しかしこんな状況ではやたらと典礼が毎日行われているような格好となって典礼の意味も薄れてしまうということで、1962年のカトリック世界での第二回バチカン公会議では、典礼の意味を明確にするところから聖人の日を整理して歴史的にその存在・業績が不詳な者は祝祭対象からはずしたのでした。こうして現在ではカトリック世界では聖人の日はかなり少なくなりました。またカトリックではその聖人の重要性に応じてランク分けをしており、そのランクは
「祭日(大祝日)」「祝日」「義務的記念日」「任意の記念日」となっていて、祭日や祝日の記念日にはその聖人個人に特有の典礼文を用い、記念日の場合は通常の式文で良く、「任意」の場合はそれこそ記念してもしなくても「任意」となってくるわけです。ただし国や地方によっては貢献度のちがいからことなった扱いをする場合もあります。たとえば「フランシスコ・ザビエルの日」は、正式には「義務的記念日」なのですが、日本では「祝日」となっています。
 ちなみに、祭日は結局一年365日のうちで10日ほどになり、祝日は24日ほどになっています。義務的記念日は、およそ70日ほどで任意は60数日になっています。合計すると167内外となり、ずいぶん少なくされたわけでした。
 
 以上がキリスト教的な意味での祝祭日となるわけですが、しかし西洋では、表ではキリスト教の祝日と称しながら、実際は
「古代からの民間信仰に基づく祭り」が一年の節目節目に大きく執り行われているのです。それは多くが日本の祭りにも似て、さまざまの飾り付けを家々や地域に付けて、火を燃やし、肉を喰らい、酒を飲んで、どんちゃん騒ぎをし、また踊り狂い、さらに山野の動物や精霊に扮した仮面行列・行事が伴うといったもので、ここにはその民族の土着の生の息吹が見られます。
 これらはキリスト教からみれば
「異教の行事」なのであり、実際キリスト教側は必死にこれらの行事の撲滅を図ったのですが、民衆の力には抗しがたく、結局キリスト教聖人の祝日という建前にさせた上で、実態としては古代からの民間行事を許容せざるを得なかったのでした。ですから今日でも西欧の何処にでもこうしたタイプの古代からの民間信仰に基づく行事はたくさん残っているのです。その多くは「季節の変わり(夏至や冬至)、春の到来」また「繁栄」の祈願となっています。繁栄の祈願は当然「農耕」「狩猟」にかかわるわけですが、そのため土地土地で異なった祭りの形態となります。

バレンタイン・デー
 日本でもっとも有名なキリスト教の祭り(と思われている)ものの代表がクリスマスと、2月14日のバレンタイン・デーとなるでしょう。日本ではこの日は、
「女性が男性に愛の告白をこめてチョコレートを贈る日」、さらにここから転じて「義理ある男性にチョコレートを贈らねばならない日」などということになってしまっています。しかも3月14日には「ホワイト・デー」と称して、逆に「男性が女性にお返しをしなければならない日」などとなっています。本当にこんな行事がキリスト教にあるのでしょうか。
 結論から言うと、「ありません」。この
「バレンタイン・デー」というのは祝日でもないし、由来も内容も良く分からない、ということになります。教文館の大部な「キリスト教大事典」でもヴァレンティヌスの項目で、「三世紀のイタリア・テルニの主教でローマ皇帝によって殉教、その祭日(2月14日)はドイツでは「不幸・運命の日」、英米・フランスでは「求愛の日」とされているが、これはローマにおける2月中旬の異教の祭りと結びついたもので、ヴァレンティヌスと関係はない」とだけしか述べておらず、いたって素っ気ないものです。一般に引用される事の多い岩波の「キリスト教辞典」でも、「2月14日がヴァレンティヌスの記念日とされて、この日に恋人たちが贈り物をするという習慣は、この日から鳥がつがい始めるという民間伝承や古代ローマの豊穣祈願祭ルペルカリアからきたとされるが正確な起源は不明」としています。
 また、日本での女性が男性にチョコレートを贈る習慣については、これは全く日本だけの習慣で、日本のチョコレート会社が売り上げを伸ばすために作り上げた
「チョコレートの売り上げを伸ばす陰謀の日」以外の何ものでもありません。騙されやすい純朴な日本人はまんまとチョコレート会社の陰謀にはまってしまったのでした。
 また一部欧米での、恋人同士(夫婦・友人間まで広がっている)が贈り物をするという習慣ですが、これは確かにあるようです。しかし、これはどうも近代になってからの習慣のようでキリスト教初期からのものではないようです。先に指摘したように、起源としては古代ローマの豊穣祈願祭「ルペルカリア」にあるとの説もありますが、そうだとした初期から大々的にあった筈と考えられますがそうした記録はなく、そこで、現代人が春となってこの日から鳥たちがつがいとなるからだろうなどと
「こじつけの民間伝承」を言いだしたらしいのですが、これも眉唾のようで、従って「良く分からない」となります。
 要するに近代になって、贈り物の交換はいい習慣だから奨励しようとされただけのようで、これに訳が分からないままヴァレンティヌスが担ぎ出されただけのようです。つまり
民間での新しく創作された生活習慣にキリスト教的意義をこじつけただけ、となるわけで、それも大した意義がある訳でもないので、ですからキリスト教としてはこれをまっとうには扱っていないわけでした。
 つまり、カトリックが正式に定めている2月14日の祝日というのは「キュリロスとメトディウスの祭日」なのであり、正体のはっきりしないヴァレンティヌスは祭日からはずされているのであって、つまり
「バレンタイン・デー」なるものは正式のキリスト教世界には存在しないのでした。
 また3月14日の
ホワイト・デーときたら全くキリスト教のこじつけすらもなく、世界中の何処でも誰もが知らない、日本だけの「商売人の陰謀の日」にすぎないのでした。

聖ゲオルギオス
 
「竜退治」で有名な聖人で4月23日がその記念日とされますが、教会暦では身元の判然としない聖人は全て記念日から排除することとしたため正式の記念日とはなっていません。しかし、大の人気者ですのでこの日に祝祭をする地方も多いようです。ドイツでも「竜と戦う聖ゲオルクの祭り」が一般に行われるようです。
 ゲオルギオスは、英語では
「ジョージ」という発音になります。この名前ですぐ分かるように、これは西洋人にとってはもっとも良く知られた最大人気の聖人ということになります。特にイギリスでの1714〜1830まで続く四代の王がジョージであり(従ってこの時代を英語で「The Four Georges」という。そのほかにも二人いる。)、感嘆詞として「By George」という言葉があり、これは「神かけて」「真実に」という誓約の意味となったり、「まさか」という驚きの表現として使われます。
 しかしこの聖人は何もイギリスの聖人というわけではなく、すでに伝説の人物で史実は不明なのですが、伝承では300年代の人で、小アジアのカッパドキア(現在のトルコの最大観光地となっているところで、ごく初期からのキリスト教の中心地)の出身とされ、パレスチナで殉教したと伝えられます。
 この聖人は先に指摘したように「竜退治」で知られている聖人で、その吐く毒の息で農民を苦しめ、農民は羊を貢ぎ物として捧げていたがそれも尽きてしまい、土地の王がその娘を犠牲として差し出そうとして嘆き悲しんでいるところにこのゲオルギオスが行き会わせ、その竜と戦いそれを倒し王女と農民を救い、キリスト教への改宗を勧めて立ち去っていったという伝説があります。
 この「竜退治」が後に
「戦士の守護聖人」とされた所以で、戦士・領主階級の聖人として広く人気となったのでした。もちろん西欧中世の「騎士物語」の原型・モデルとなっているわけで、その意味でも人気者となっていったのでした。
 ただし、西欧だけで人気者というわけではなく、東欧ビザンティンの教会壁画やイコンでも人気のテーマとなっていて、故郷とされるカッパドキアの教会堂でも特にその主題の壁画が見られます。俗称で
「蛇の教会(ギリシャ神話では「竜」とは「蛇」の巨大なものとなる)」と言われているのがこの壁画を主要テーマとしているものです。
 現代の正教の国ギリシャでも男性の名前で「ゲオルギオス(外国人にはジョージと自己紹介している)」というのはもっともポピュラーなものとなっています。ただ、このゲオルギオスというのはもともとギリシャ語のゲオルゴーという動詞から作られている名前で、ゲオルゴーというのは「耕す」という意味になり、ゲオルゴスは「農夫」となり、農夫の守護聖人ともなりうるところから農民にも人気となっているのかもしれません。

聖ニコラウス
 祝日は12月6日とされますが、先の理由で正式の記念日とはなっていません。彼については「クリスマス」のところでも紹介しておきましたが、19世紀という最近になって欧米で「サンタクロース(聖とは「セイント」で「セイント・ニコラオス」と続けてなまった発音にすれば容易にサンタクロースとなる)にされてしまった聖人です。ともかく実在はしたらしいのですが、その伝説はあるものの生涯は不明な聖人の一人です。
 言い伝えによると四世紀頃の
小アジアの地中海沿いにあったミュラ出身の主教とされます(現在のトルコですが、当時はギリシャ・ローマの地でごく初期からのキリスト教の伝播地域)。その伝説的物語によると、殺された若者を生き返らせたり、難破した水夫を助けたり、飢餓の折に人々にかき集めた穀物を施したり、落ちぶれた人の三人の娘を助けたり(この伝説が、娘に金貨を施した時、その金貨が靴下に転げ落ちたなどというクリスマス物語りになっていった)、ともかく貧しく災難に遭っている人々を助ける物語となっていて、それが一般庶民の救済願望と結びついて「人気の聖人」となっていったと思われます。
 とりわけギリシャ・ロシアという正教の世界で崇拝されている聖人ですが、西欧でも人気となって12月には大人がニコラオスに扮して子ども達に贈り物をする習慣ができあがり、それがクリスマスのサンタクロースとなっていったとされます。ギリシャでは「海の守護聖人(水難から水夫を救ったという伝承に基づく)」として港によく彼の名前を持った教会が見られます。
 ドイツ、オーストリア、スイスなどでは「聖ニコラウス祭」と命名はされているものの、実態は
「古代からの習俗を伝える仮面行事」が今でも残っています。
 ちなみに、日本での正教の伝道者で、神田のニコライ堂に名前を残すロシアの司祭ニコライはこのニコラオスに名前をとった人で、ロシアには多い名前の一つです。

その他の祭り
謝肉祭(カーニバル)

 この祭りは、もともとはキリスト教の
復活祭に伴う断食の習慣と、民間の春の祭りが合体したものと言えます。
 およそ4月頃に巡ってくる復活祭はキリスト教の祭りの中心になるものですが、それに向かって「レント」と呼ばれるおよそ40日間の準備期間があります。この間は、節制と慎みの生活を送ることが要求され、人々は断食をしたり、少なくとも肉食を絶つということが要求されました。「カーニバル」というのは、この
「肉を絶つ(カルネム・レヴァーレ)ないし肉にサヨナラを言う(カロー・ヴァーレ)」というラテン語に由来すると言われます。ですからこの限りは宗教的な意味を持っていました。
 しかし実際にはリオのカーニバルに見られるように、どんちゃん騒ぎがどこでも行われているわけで、このカーニバルに宗教的な意味など見る人はほとんどいません。その原因は、このレントに入る頃というのは「春の到来」と時期が重なっているわけで、世界中で民間には大昔から
「春を迎える祭り」が大々的に執り行われていたわけです。仮面をかぶって「山野の精霊」に扮しての祭りや「山の動物たちに扮した祭り」など何処でも何時でも行われ続け、それは今日にまで続けられています。仮面舞踏会などはこの流れにあり、仮装行列なども同様です。ここでは狩猟民俗の場合なら「肉」を焼いてたらふく食い、酒を浴びることになります。今日「カーニバル」というとこちらの場面がイメージされるのは一般庶民感覚からすれば当然ということになるでしょう。

感謝祭(サンクス・ギビング)
 これは
アメリカだけの習慣です。11月の第四木曜となりますが、アメリカの法定祝日です。由来は、1621年にイギリスから移民した清教徒たちがアメリカで迎えた最初の秋に、この土地に適した農法を教えてくれた原住民に対して、収穫を祝う日に野生の七面鳥を焼いて感謝したという故事に由来します。独立を果たして初代大統領となったワシントンは1789年の11月26日にこの祝日を宣言し、以来アメリカでは離れて暮らしている家族も一堂に会して共に食卓を囲みこの日を祝うという習慣が定着したものです。

ハロウィン
 10月31日ですが、これはイギリスの
アイルランド出身のアメリカ人やオーストラリア人に間に行われていたものが一般化したものと考えられ、アイルランド人の先祖古代ケルトの風習です。元来はこの日がケルト暦の正月で、人間世界にもどってきた先祖の霊を迎える火祭りで、ちょうど日本のお盆とおなじような祭りでした。それが移民によってアメリカ大陸にもたらされて、子どもがカボチャをくりぬいてお面にしてかぶったり、提灯にしたりして遊ぶようになりました。これは元来の死者の霊との交流とそれを通じて新たな生命力を回復すると信じられているものが「子ども」に託されたからなのかもしれません。こういったタイプの祭りは祖先崇拝のあるところ全世界中にあったとされます。
 このハロウィンはキリスト教の伝播に伴いキリスト教の中に取り入れられ、
万聖節(カトリックでは「諸聖人の祝日」)の前夜祭として残されました。こうした民族の骨幹にかかわる祭りは民衆から取り去ることはできないため、キリスト教側も取り入れざるを得なかったわけで、これに限らずキリスト教の祭事や行事にはこうした特徴が随所に見られます。

メーデー
 メーデーというと「労働者の祭典」と思っていますが、実はこれは
「北欧起源の土着の祭り」であり、春の遅い北欧の人々が5月になってやっと春になったということでその1日を祝日として「仕事を休んで」祭りをしたのでした。その習慣が近代の「労働者のまつり、メーデー」の起源となっているのです。
 この時期は、緑の若枝を屋内や家畜小屋に飾り、5月はそうした意味でまた
「恋いの季節」でもあり、乙女が白樺の若枝をリボンで飾り愛の告白をしたものでした。祭りとしては五月の王と女王、花婿と花嫁が選ばれ、神々の結婚を模した祭りを行い豊穣を祈願したものです。有名なのが「メイ・ポール(五月樹)」と呼ばれるポールで、これは天地を結びつける生殖のシンボルと言えます。この祭りはドイツやオーストリア、スイス、フランス、イギリスなどに見られます。
 これはさらに北のスカンジナビア地方では「夏至祭」となって6月22日に同じような意図、催しとして行われています。特に太陽願望が強いため「火」の祭りが特徴的となります。

ボクシング・デー
 12月の26日、つまりクリスマスの翌日ですが、このように命名された祝日が執り行われているキリスト教圏の国々が多く、私たちはうっかりスポーツの「ボクシング」と思って奇異に感じてしまうことがあります。
 しかしこれはスポーツのボクシングではなく、クリスマスを祝うこともできなかった
貧しい人々への寄付を募った「箱(Box)」を開ける日であることからこのように呼ばれているものです。
 あるいは、クリスマスも仕事をしなければならなかった
召使い達に主人が箱(Box)に贈り物を入れてもたせ、この日を休日としてやったとも言われます。同じレベルで、クリスマスにはカードやクリスマス・プレゼントを配って歩かなければならないためクリスマスをできない郵便配達の人たちに箱入りのプレゼントをするとも言われます。

サンタルチア
 ナポリ民謡で有名な「サンタルチア」ですが、これは
「聖女ルシア(サンタとはもちろん「聖・セイント」の意味で、「聖・ルシア」というわけ)」というわけで、祭日は12月の13日となっています。
 イタリアでのルシアはキリスト教初期の時代の
「殉教の聖女」で、迫害の中で両目をえぐられ、そのためこのルシアの画像表現はえぐり取られた両目を描くというものになっています。
 一方、この聖ルシア祭で有名なのはスゥエーデンのそれですが、こちらは殉教のルシアを祭るのではなく、
「光の女王」を祭る民間祭事の流れにあるものです。光の女王に選ばれた美しい乙女が光の王冠を付けて、それに従う美しい乙女たちの行列を中心に行われる祭りは、それはそれは美しく華麗な祭りで知られます。何故こんなことになっているのかというと、「ルシア」というのはラテン語で「光・ルクス」と重なるからで、「聖女ルシアの祭り」はスゥエーデンのような光を渇望する人々にとって大事な「光の女王の祭り」と容易にダブらせることができたからです。こうして、名目は「聖女ルシアの祝日」とされながら、実態は民間の祭りとなっているわけでした。こんなタイプの祭りはヨーロッパ中にたくさん見られます。

▲ページのトップへ